C-2 位置指定道路の始まりと必要性 ~戦後の事情と現代の事情~


昭和20年の敗戦に伴い、日本ではありとあらゆる制度が変わりました。

それは、GHQが戦前の制度が前大戦の引き金になったと考えた為です。
財閥制度、戸長・長子相続といった『家』制度、小作制度・・・
またそれ以外にも、アメリカが共産主義に対抗する為の防波堤として、より統治しやすく、資本主義的な制度を取り入れました。

昭和21年『自作農創設特別措置法』を始めとしたGHQの農地改革
昭和22年『過度経済力集中排除法』によるGHQの財閥解体ののち、
昭和25年『市街地建築物法』は『建築基準法』に変わります。

これが、日本の街並みが現在のようになった契機であるとも言えますし、
一方で国家の弱体化を招いたという人もいます。

戦後の札幌では、かつて開拓者や小作人だった人々が、
『自作農創設特別措置法』『過度経済力集中排除法』などによって、
国策企業や不在地主・大地主が所有する土地を譲り受けました。

昭和30年ごろになって、札幌の宅地化がより進んでいくと、
大きな土地を持った方々は、住宅地としての分譲を考えます。
例えば、このような大きな土地…農地や原野があった場合、どのように建物が建てられるでしょうか。
前回紹介したように『建築基準法では、建物を建てる土地は、道路に面している必要があると定められました。
これを建築基準法上の『接道義務といい、『市街地建築物法』における『建築線』制度から現代まで、100年生きている大原則です。
つまり、『接道義務』を守ろうとすると、このように道に面している部分にしか建物が建てられないという状況になります。
元々が農地や原野だった大きな一面の土地は分譲に向かないのです。

大きな土地にドン!と大きな建物を建てるという方法もなくはありませんが、
昭和30年~40年ごろでは、やはり一般的ではなく、木造戸建での分譲が主な処分方法でした。

このままでは大きな土地の奥の部分は建物が建てられず、利用価値がないという状況に陥ります。
つまり、GHQが望むところの土地の分散所有が達成されないという事です。
そこで活躍するのが、建築基準法第42条1項5号に定められた『位置指定道路』です。

(建築基準法第42条1項5号)
 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの

前回『告示建築線』は位置指定道路の前身である、と紹介しましたが、
『告示建築線』は行政官庁が指定するものであり、
『位置指定道路』は特定行政庁から指定を受けるものです。
しかし、建築基準法では、市街地建造物法と異なり、その主体はあくまでも『道を築造しようとする者』です。

これは、建築基準法によって、民間の主導で道路を築造し、分譲することが出来るようになったという事です。

つまり、農地改革、財閥解体、建築基準法の合わせ技によって、土地の分散所有を実現したです。

こうして、位置指定道路に面する部分には、建物を建てる事が出来るようになります。
このように、位置指定道路があることによって土地の有効利用が出来るようになりました。

そして宅地造成・分譲のブームが起こり、低所得者であっても住宅ローンで家を買えるようになりました。
『持ち家』『マイホーム』に対する信仰が生まれたのもこの頃だと言われています。

『建築基準法』の他、『(旧)宅地造成法』や長期低金利融資の住宅ローンを扱った『住宅金融公庫』などの各制度で、国は全面的にマイホームの取得を支援してゆきます。
『持ち家』があれば、家具家電も必要になりますし、様々なサービスも循環しますから、『家』が日本国の内需を支える原動力であった、とも言えます。

昭和30年~40年ごろまではそれでよかったのです。

しかし、これが、後々厄介なことになってきています。
何度も書いていますが、位置指定道路はあくまで私有地

位置指定道路の土地を持っている場合は・・・
 ・通り抜け出来ない位置指定道路には固定資産税がかかる。
 ・一度、位置指定道路にしてしまうと、なかなか処分出来ない。
 ・位置指定道路を所有していることに、メリットが殆どない。

一方、位置指定道路に面する建物の敷地を持っている場合は・・・
 ・配管を掘る場合、『私道掘削許可』を所有者に貰わなければならない。
 ・原則、除雪が入らない上、舗装費用も札幌市の負担はない。
 ・そのような不便があるので、財産価値が低い

・・・他にも諸々の細かい点はありますが、概ねこんなところでしょうか。
そして、位置指定道路を設定した、過去の地主さんがいなくなり、
その子供や孫の代になると所有者が分散し、その位置指定道路は完全に手が付けられなくなるのです。

戦後のマイホームブーム、続々と分譲された造成宅地の問題は位置指定道路だけではありません。
市街のスプロール(虫食い)化によって『都市計画法』が施行されたのは『E-1 市街化調整区域とは何か』で解説した通りですし、それだけでは問題が解決せず、既存の住宅地に『地区計画』を設定したのは『E-4 市街化調整区域と『地区計画』』で紹介しました。

他にも郊外に造成された新興住宅地の問題や分譲マンションの問題など『不動産神話』の爪痕は深いものがあるのです。

私は『不動産神話』の爪痕を解決してゆくことが、これからの不動産従事者の役割であると考えており、シリーズ『位置指定道路』がその為の一助になることを、願っています。

当記事は2013年12月09日の記事を最新の状況を反映し改稿したものです。