マンション管理適正化法は、中古マンションの流通をまったく適正化していない!

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さて、中古マンションの流通の重要な役割を担う『重要事項に係る調査報告書』は、
通常マンションの管理会社に属する管理業務主任者が作成しますが、
現状ではその内容に問題があるケースが多い、というお話を展開してきました。

今回は管理会社と管理業務主任者の問題を制度的な観点から見てゆきましょう。

マンションの管理会社と管理業務主任者の法的な根拠は、
平成13年施行の『マンションの管理の適正化の推進に関する法律』によります。
この、略称『マンション管理適正化法』の根底には、

マンションの管理組合を管理会社から保護しよう、という理念があります。
具体的には、マンション管理組合との契約の際には重要事項説明を行う事や、
修繕積立金などを始めとする財産の管理や会計処理について定められています。

一方で、マンションを新たに買おうとする消費者の保護までは考えられていません
例えば、国土交通省では違反行為について監督処分の基準を公開していますが、
この中でマンション管理組合との契約の際に管理業務主任者が作成・説明する『重要事項説明書』に、誤りがあった場合には業務停止処分が定められていますが、『重要事項に係る調査報告書』の記載に誤りがあった場合の罰則については、定められていないようです。
一部、第79条『書類の閲覧』による罰則に該当するかもしれませんが、
それにしたって業務停止処分ではなく、指示処分ですから、扱いが非常に軽いことがわかります。
  http://www.kanrikyo.or.jp/format/pdf/tsuutatsu/2011shobunkijun.pdf

また、ここまでにも何度か例に出して来ましたが、
取引対象となる部屋を含めた各室内の状況についての確認に対して、
あくまで共用部のみの管理を受託しているのであって、

専有部(各室内)を管理しているのではないから、その質問に対して回答する必要がない、というのは一つの考え方でありますが、
多くの管理会社はこれを業務の省力化のための方便にしているフシがあります。
 
マンションを購入するお客様は利害関係者ですから、
詳細な情報は示せないまでも管理会社が過去に問題を知り得ているか否か』程度は、購入者に対して開示する義務があると思うのです。
 
例えば土地の売買の場合宅建主任者がこんな事情を買主様に知らせずに仲介した場合には、宅建業者には重要事項説明義務違反として責任を負わされるケースがあります。
 ・暴言や威嚇を伴うご近所トラブルを知りつつ、それを買主に知らせなかった。
 ・近隣に反社会的勢力(暴力団等)の事務所があるのを知りつつ、それを買主に知らせなかった。
 ・過去に殺人事件事故があったことを知りつつ、それを買主に知らせなかった。
 
また、以上の例では『知りつつ、知らせなかった』ケースを取り上げていますが、
『知らなかったので、知らせなかった』場合でも『調べて知っているべきだった』と判断される場合があります。
(例えば、プロが少し注意して調べれば明らかに分かる、というような場合。)
 
一方で『ちょっとやそっと調べても分からない』ような情報については、
宅建主任者が知らなかったことに対する責任を追及される事は、少ないと言えるでしょう。
 
これに倣って言えば、管理業務主任者についても、
取引対象となる部屋に影響するような周辺環境や事件事故の履歴は、当然に明らかにすべきでしょう。
 
宅地建物取引主任者に比べると、管理業務主任者の方がはるかに新しい資格ですから、
まだ十分に制度が醸成されていない、といえるかもしれませんが、
管理業務主任者が作成した『重要事項に係る調査報告書』をもとに
宅建主任者が『重要事項説明書』を作成することを鑑みれば、
そういった怠慢がマンションを中古で購入する方へ与える被害は甚大なものです。
 
もちろん、マンション管理会社の顧客は各マンションの管理組合である訳ですから、
まだ所有者ではない購入希望者を何もかも最優先する事は出来ないにしろ、
購入希望者が安心して購入できるようにする環境づくりをする事で
結果的に将来の管理組合の構成員を大事にし、そのマンションの流通価値を高める事にもなるのです。
『マンション管理適正化法』ですから、流通に主眼を置かないのも分かりますが、
現状の管理会社のマンション流通に対する在り様は、あまりにもずさんに過ぎます。
国交省は『重要事項に係る調査報告書』の重要性を考慮し、もっと制度化を進めてゆくべきだと思います。

当記事は2015年3月31日の記事を最新の状況を反映し改稿したものです。

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