E-3 市街化調整区域と『農地』

『農地の売買は難しい』とはよく聞く話です。

・・・ええと、よく聞く話ですよね?

個人的には不動産業界にいる前から知っていた話ですが、法律分野や経営分野の業界にどっぷり漬かってきたせいか、何が一般常識で、何がそうでないのか、いまいち分かっていない自分がいます。

でも、テレビゲームをやる方であれば『桃太郎電鉄』シリーズで農地物件が売買出来ないことは有名ですよね。
とにかく『農地の売買は難しい』のです。

具体的には、農地は原則的に、許可なく売買してはなりません。
許可なく売買をした場合には、その取引は『無効』という取り扱いになります。
(仮に売買をしたとしても、その『効』力は発生し『無』い、という事です。)
売買するにあたっては、原則として、買主が農業従事者である個人または法人である必要があります。
ですから、農地の買い手は非常に限られている、という事ですね。

また、農地以外の用途に許可なく転用する事も禁止されています。

で、この許可を受けるための手続を代行できる国家資格者が、ケースによって多岐に渡るというのも面倒なところです。
一般的には司法書士土地家屋調査士に依頼すればOK。
(両方に依頼する必要がある場合でも、連携の必要があるので、依頼した片方の先生がもう一方の先生を手配してくれるのが通常です。
 どちらかというと司法書士の先生に依頼する方が多いのかな?)

建物を建築する場合や商売をしようという場合などによっては、建築士、弁護士、行政書士などに依頼することもあります。
宅地建物取引士という資格では、農地に関する手続きを代行することは出来ません。
(もちろん、実務上の知識はありますし、専門家を紹介する事も出来ますが、
 国家資格なしに実際の手続きを代行し報酬を得ると、法により処罰されます。)

この場合『農地』か否かは登記簿に書いてある内容ではなく『現況』で判断します。
具体的には、札幌市農業委員会が農地と言ったら農地、それ以外と言ったらそれ以外、なのです。

それでは、札幌市農業委員会で、具体的に『農地』の『現況』について確認する方法を紹介します。


その農地の地図(出来ればブルーマップ)や写真を持参して
市役所本庁舎15階農業委員会の窓口へ行きましょう。

事前予約等は特に必要ありません。

窓口の人にこのように声を掛けます。
「ごめんください、農地の確認をお願いします。」
「地番はわかりますか?」
「○○区○○町××番地×です。(持参した地図を手渡して)この場所です。」
「地図をお預かりしますね。」
職員が市役所のデスクで航空写真のシステム画面から当該地を検索します。
「この土地は札幌市では今のところ農地として認識していませんね。
ただし、本当に農地に該当しないかどうかは、実際に職員が現地を見て判断します。
または
「この土地は札幌市で農地として認識していますね。売買や転用には許可が必要です。」

…と、いった具合です。職員の回答は原則2パターンしかありません。
農業委員会に『農地』だと判断された場合で、その土地の転用や売買を行いたいときは、司法書士や土地家屋調査士に相談しましょう。
お付き合いのある不動産業者がいる場合には、その業者に紹介してもらってもいいかもしれません。

なお、『現況』が農地でない土地の登記簿の地目が農地となっている場合、登記簿の地目変更のための証明書を農業委員会で発行してもらう事が出来ますので、覚えておきましょう。
発行してもらった証明書をもとに法務局で登記簿地目の変更手続きを行います。

たとえばこの土地は、市街化区域内にあり、地目は農地ですが、
札幌市農業委員会には現況『農地』ではないと認識されていた土地です。
このような土地の場合は、地目さえ変更すれば、通常通りの取引が可能です。

ちなみに、現況も地目も農地ではない場合ですが、その場合には完全に農業委員会の管轄外で、通常通りの扱いとなります。

さて、次は農地と認識されている土地の転用について、です。
農地が転用出来るか否か『市街化区域』『市街化調整区域』かで大きく異なります。
市街化区域内の農地であれば原則転用可能で、売買もそう面倒なく可能です。
市街化調整区域内の農地については、正直、かなり難しいと言わざるを得ません。

上記が市街化調整区域内にある農地を転用する際の許可基準です。
見て分かる通り、『原則として不許可』が大半ですね。
特に『農業振興地域』と呼ばれる地域に指定されている場合には、まず転用は不可能です。

例外として市街地内の農地、『第3種農地』の場合には原則許可、
将来市街地になる『第2種農地』の場合には、公益性の高い事業の場合等に許可される、という事です。
まー、調整区域内で農地指定されている段階で、現在市街地だったり将来市街地になるという可能性は、非常に薄いのですが。

そもそも論として、農地の転用が許可されたところで、どーせ市街化調整区域なので、原則建物は建たないのです。
市街化調整区域で建物の建築が許可されるのは、公益性の高い建物やその立地でなければ難しい事業の為の建物に限られていますから、そもそも農地だからどうだ、という話ではない事の方が多いんですよね。
とはいえ、許可されなければ売却は出来ませんから、本当に市街化調整区域の農地というものは難儀なものです。

当記事は2014年03月21日の記事を最新の状況を反映し改稿したものです。

E-2 不動産業者は市街化調整区域を扱いたくない

一般に正規の不動産業者は、市街化調整区域に関わりたがりません。
正直私自身も、ビジネスとしてはさほど大っぴらには積極的に関わっていません。
他の業者の方もお付き合いのある方からの依頼でやむを得ず引き受けている、という場合が多いようです。

その理由はシンプルで2つしかありません。
①売上が非常に低い
②経費と手間は通常と同様かそれ以上にかかる
つまり、利益率が非常に低い。ぶっちゃけて言うと、儲からない

①売上が非常に低い
俗に『3%+6万円』なんて言いますが、不動産売買仲介の手数料は、売買価格に比例して制限されます。

根拠は
昭和45年建設省告示第1552号『宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額』というもので、400万円以上の取引については3%+6万円(+消費税)という、速算式が用いられます。

フツーの人が持っている100坪単位の市街化調整区域の場合、大抵は100万~300万円程度の取引額になりますから、4~5%の仲介手数料になる訳です。

倍額まで手数料の制限が緩和される『代理』という契約形態であれば、8~10%の手数料を頂くことは理論的には可能ですが、ただでさえ少ない売主さんの実入りを更に減らすというのも気が引けます。

100万円の取引して5万円もらえるならいいじゃん!…というのも考え方ですが…
不動産仲介は、売上が上がればいいのですが、売れないまま契約期間が終了して、媒介契約が解約となってしまうと、通常、それまでの経費が回収出来ないのです。

ただでさえ売却の難しい市街化調整区域、いつ解約されるかわからないのに、経費と手間をかけて販売活動を行うのは、ハイリスク・ローリターンと言わざるを得ません。

②経費と手間は通常と同様かそれ以上にかかる
そして不動産仲介の経費というのは、土地だけの場合、大きくは変わりません。
売買価格で手数料が上がるのは交渉の成功報酬や損害賠償リスクによるものです。

具体的な経費と手間を列挙してみましょう。
・登記関係やその他の書類を収集するための費用は、通常と同一です。
・当然、広告や販売活動にかかる費用や手間も、通常と同一。
・過去の使用履歴がわからず土壌汚染や地中埋設物のリスクが高い。
・道路や河川の公共測量が入っていない地区が多く、ひどい場合、どこからどこまでが公道かも不明瞭。
_私有地同士の境界など、分からないのが当たり前。
・多くが郊外にあり、現地まで行くのが手間。
_更にヤブを掻き分けて山中や原野を歩かなければならないことも。
・売れるまでの期間が長いのでランニングコストがかかる。

うーん、性格悪い言い方ですが、率直に言って、市街化調整区域って、大規模な土地でもなければ全然儲からないんですよね。
というか、例え話ではなく本当に、人件費を除いた純粋な原価すら回収できないケースが大半。
まして、売主さんとの従来のお付き合いがなければ、いつ仲介が解約になるか分かりません。

ここまでざっくばらんに書いたのは、『不動産業者』を名乗る詐欺がとっても多いという事があるからです。
通常の不動産業者は、上記のような理由で原則的にあまり積極的に市街化調整区域に関わりたがりません。
(もちろん、例外もあるにはあるのですが・・・)
『市街化調整区域と詐欺的行為』については、また別に記事を設けます。

『調整屋』と呼ばれるような、市街化調整区域を専門に仲介や転売を行う業者も、いるにはいるのですが、100坪程度の土地で動くという話は、あまり聞きません。

例外として挙げるとすれば・・・
・公道に面した大規模な土地で、それなりの取引総額になる。
・『地区計画』により建物の建築が例外的に認められた地域である。

こういった場合ならば、不動産業者も引き受けてくれると思うのですが、一般的にな100坪程度の土地で、公道に面していないものについては、不動産業者としても結構シンドイ思いをしながら媒介活動をしているのです。

そういった事をご了承頂いた上で、安価ではありますが、市街化調整区域の土地を引き取らせて頂く場合もあります。
買取については、可能である物件と不可能である物件、価格が付く物件とそうでないものがありますから、もし希望される方は具体的な地番を記載した上でこちらの問い合わせフォームにてご連絡頂ければ対応致します。

そこで、市街化調整区域について、例外に該当するのか否か、つまりは処分の可能性があるのか、可能な限り自分で調べられるようにする、というのがこの一連のコンテンツの目的であったりもします。

ダメならダメで、何故ダメなのか、知っておいた方が諦めもつくというものでしょう?

次回以降に続きます。

当記事は2014年03月19日の記事を最新の状況を反映し改稿したものです。