E-8 市街化調整区域と『私道』

繰り返しになりますが、『市街化調整区域』とは際限ない開発を抑制する為に、その名の通り、市街化を調整する区域です。
市街化調整区域では、一部の例外を除き、原則的に建物を建築する事ができません。
『一部の例外』とは『E-4 市街化調整区域と『地区計画』』で紹介した地区計画が代表的です。

目的としては乱開発を防ぎ、自然環境を守るというお題目もありますが、道路整備や上下水道などのインフラや行政サービスを最小限に絞る、という目的もあります。
建物が密集しているのも問題ですが、あまりバラバラに建ってしまうと、さまざまな行政サービスの費用がベラボーにかかってしまいますから、自治体としては、ある程度まとまった区域に住んでいてもらった方が効率的なのです。

市街化調整区域は札幌のどの区にもあり、山奥や郊外の過疎地の地区が指定されています。
既に住宅街や商店街になっている地区は、一般に『市街化区域』に指定されます。
最初に書いた通り、『市街化調整区域』では、札幌市から建物建築の許可が下りません。
プレハブ小屋などが建築されている場合もありますが、それらの大半は建築基準法違反の建物です。
実質的に『建物が建てられない土地』ですから、市場価値はとても低くなります。

建物が建てられないとはいっても、取引が禁止されている訳ではありません。
不動産流通の世界では、建物を建てない前提の土地『資材置き場用地』とか『作業場用地』『家庭菜園用地』として売られています。
最近では『太陽光発電用地』なんていうのも、ちらほら出てきています。

そんな事情がある『市街化調整区域』、実は
公道がとっても少ないのです。

道路整備や上下水道配管を整備・維持する費用もばかになりませんから、通行の為の、昔からある最低限の公道だけが残り、新たに整備されることはまずありません。

とはいえ、そこに土地を所有する人は、自分の土地に行くための『道』が必要です。
ですから、『市街化調整区域』には『私道』がとても多いのです。
これらの『私道』は、一般的には民有地で、民間の個人や法人が所有するものです。
公道ではありませんから、当然、冬の除雪も自前、砂利やアスファルトでの道路整備も自前です。

そして、大原則では『私道』を通行するには、その私道の所有者の許可が必要です。

しかし、郊外の過疎地ですから、実際には誰彼構わず自動車で通行しているのが実情です。

法律上、建物が建築出来ない土地にプレハブ小屋が建っていたりと、『市街化調整区域』は、人の目が少ない事もあって、無法地帯になってしまっている面があります。

ただし、建物の建築も、私道の通行も、あくまでも慣習で咎められていないだけです。

市街化調整区域に建物を建築すると、札幌市から取り壊し命令を受ける事がありますし、私道についても、看板や柵などで通行禁止にされてしまう恐れがあります。

滅多にある事ではありませんが、可能性はゼロではありません。
『市街化調整区域』の土地建物を購入・売却・貸借しようとする場合には、リスクがあるという事を覚悟しておきましょう。
私は、実際に建築基準法違反の取壊し命令や通行禁止の事例を目にしています。
宅建業者は取引の際の『重要事項説明書』で、こういった事を説明する義務がありますが、

お客さんを安心させるためなのか、宅建業者の担当者が、
『実際、建物取壊し命令なんて絶対にありませんよ』だとか
『囲繞地通行権があるので、自動車で通行しても全然問題ありませんだとか、
書面の外で無責任な事を言う場合もままあるようです。

同業者として恥ずかしい限りですが『とりあえず成約させて、仲介手数料が貰えればそれでいい』という不動産業者は、とても多いのです。
特に営業成績だけを気にするような営業マンの場合には要注意ですね。

市街化調整区域に限った事ではありませんが私道については、その所有者の所在や、私道の範囲法的性質について慎重に調査・告知する必要があります。
無責任に大丈夫だと言うのではなく、法律に則ってどういう事になるのか、ということを誠実に説明する必要があります。
また、私道の所有者がどこの誰でいつどのように取得したのかによって、その私道の性質は大きく変わって来ます。
例えば、私道の所有者が明治から登記されていないのであれば、現代になって権利を主張してくる、という可能性は非常に低い一方で、私道の使用許可を得る必要があるような局面では、対応が難しくなります。

この辺りをきちんと調査・告知出来る不動産業者でなければ、特に難易度の高い市街化調整区域の土地の取引を任せるには値しないと言っていいでしょう。

不動産の取引は信頼できるプロからしっかりと説明を受け、進めていきましょう。

当記事は2013年11月10日の記事を最新の状況を反映し改稿したものです。