中古マンション売買における『重要事項に係る調査報告書』とその実務上の問題点


最近、立て続けに中古マンション関係の仕事を頂いており、
先日も中古マンションの取引が2日連続でありました。

そんな事もあり、今日は中古マンション流通上の大きな問題点
『重要事項に係る調査報告書』について紹介したいと思います。

Ⅰ.『重要事項に係る調査報告書』とは?
 平成13年公布の「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、
 分譲マンションの管理会社は国土交通省への登録が必要となりました。
 また、利害関係者からマンションに関する重要な事項について照会を受けた時は、
 『重要事項に係る調査報告書』を発行することとなっています。
 また、併せて『管理規約』『分譲時のパンフレット』なども発行してくれます。

 『重要な事項』は具体的にはこのような項目になります。
 ・管理費・修繕積立金の金額と全戸分の積立総額、その住戸の滞納額
 ・バルコニーやトランクルームの専用使用権の内容
 ・駐車場等の使用権の内容、承継の可否
 ・耐震診断調査、アスベスト使用調査の記録の有無

 宅建主任者が作成し説明する『重要事項説明書』とは別のものですが、
 作成するためには『調査報告書』は必ず参照するべきもので、
 中古マンションの取引に於いて両者は不可分の存在ということが出来ます。
 (宅建業法第35条第1項第6号及び宅建業法施行規則第16条の2)

Ⅱ.管理会社の問題点
(1)発行費用が高額である
 宅建業者が不動産調査にかける費用で高額なものの2大巨頭です。 
 もう一つは登記関係の書類(全部事項証明書、図面証明書)です。

 具体的に、ライオンズマンションを管理する大京アステージの料金体系を見てみましょう。
 (平成26年8月現在)
  ・重要事項調査報告書の発行→2,160円
  ・重要事項調査報告書発行→4,320円
  ・その他関係資料(写)の提供→重要事項調査報告書とセット
 …とまぁ、だいたい税別5000~7000円くらいかかるのが標準的です。
 高額な管理会社では資料一式で一万円以上かかる事があります。
 たまーに、無料で発行してくれる稀有な管理会社もあるのですが…

 高額と言っても数千~数万円ぽっちの話なのですが、
 詳細は後述しますが、この数千円の出費を惜しむ宅建業者が大変多いのです。

 そもそも、我々宅建業者にしても、お客様から仲介手数料を頂く訳で、
 それを重要事項説明書や売買契約書の作成費用と考えた場合には、
 20~30ページの書類で何十万、何百万と頂いている訳です。
 (書類の作成だけではなく、物件調査、条件交渉、段取りなども重要な業務ですが。)

 きちんとした調査に基づく書面であれば、決して高額とは言えないと思います。

(2)内容がいい加減である場合が多い
 前段できちんとした調査に基づく書面であれば、決して高額とも言えないと書きましたが、
 つまりはきちんとした調査に基づく書面ではない場合が多いのです。

 例えば近隣とのトラブルや事件事故の履歴については、
 買主さんとしては一番気になる部分なのではないでしょうか?

 このような事を管理会社に照会した場合、きちんと対応してくれる会社も多いのですが、
 『個人情報保護の観点から回答は差し控えさせていただきます』などと、
 訳の分からない逃げ口上を記載してくるろくでもない管理会社も多くいます。
 そのような場合には、高圧的に出るのではなく、穏便に答えを出させる方法があります。
 そういった手法を持っている、しっかりとした宅建業者に依頼するのがよいでしょう。

 また、管理会社の雛形にない項目については、別料金を取られることがあります。
 『事件事故の履歴』『近隣トラブル』『暴力団の入居』などは、通常雛形にない項目です。

 雛形にない項目の確認については、こちらの確認をスルーする管理会社さえいます。
 特にマンション管理を主業務としていない管理会社などは、ひどいものです。
 
 このほかにも、駐車場契約の内容が異なっていたり、
 トランクルームがないのに書面では『ある』とされていたり、

 こんなもんに何千円も払ってるのか?と言いたくなる事が多々あります。

Ⅲ.宅建業者の問題点
◇取引直前に1度しか取得しない業者が多い
 宅建業者の仲介業務は通常、3ヶ月以上の契約を結ぶ事は出来ません。
 法律上期間の制限がないとされる『一般媒介』についても、
 実務上の指針では3ヶ月以内の契約期間とすべきとされています。

 いざ数十万円の手数料が入ると決まれば数千円の発行費用など屁でもないのですが、
 3か月後に契約が更新されなかった場合には調査費用は業者の持ち出しです。

 ですから、物件を紹介する為に色々な宅建業者に連絡をしますが、
 私:『登記関係の書類と、重要事項に係る調査報告書を送って頂けますか』
 相手:『いえ、まだ取得していなくて…』
 というパターンが大半で、取引直前まで取得しない業者が殆どのようです。

 最初に1度取得して、取引直前には取得しない業者もいるのですが、
 これは直前の滞納状況などが把握出来ないので、なお悪いですね。

 確かな調査を行う為には、販売開始時と取引直前の最低2回は取得すべきでしょう。

 ある会社で出会ったベテランの不動産営業マンは、
 『わざわざ報告書取らなくても担当者に確認すればいいでしょ』と言っていましたが、
 有料の書面でも間違うのに、口頭で聞いた無料の内容が信用できるとは、到底思えません。

Ⅳ.改善案
 宅建業者の私が言うのも欺瞞のようですが、
 現状を制度的に解決しようとすると管理会社に対しての法令制限が必要でしょう。
  ◇記載するべき事項を国土交通省が細かく指定する
  ◇初回の発行から1年以内の再発行については料金を徴収しない
  ◇追加の確認事項について、別料金徴収の禁止
  ◇書面のみではなく面談での説明を義務付けする
 …うーん、これを実現すると、発行手数料がもっと上がるかもしれません。
 ただ、2度の発行や追加事項の調査についてケチる宅建業者は減るでしょう。
 まぁ、私以外からこのような声が上がっていない事からも、実現はしないでしょう。

 現状のまま状況を解決しようとすると、宅建業者の努力と負担が必要です。
  ◇費用がかかっても調査報告書は最低でも2度取得する
  ◇書面を受け取っただけで終わらず、管理会社の担当者に内容を確認する
  ◇調査報告書の内容について入居者や管理人などから裏付けを取る

 …結構、負担になる事なのですが、仲介手数料を頂いて調査をするのですから、
 費用や時間がかかっても、きちんと調査をするのが物の道理でしょう。

 テキトーな調査でもきちんとした調査でも仲介料が変わらないのであれば、
 きちんとした調査を行う宅建業者が駆逐されてしまいます。

 これは、そもそもが仲介料の上限が法令で定められているのがオカシイという話でもあるのです。

V.消費者に出来る事
 『重要事項に係る調査報告書を見せて頂けますか?』と聞いてみましょう。
 売却を依頼する場合でも、購入を依頼する場合でも、同様です。

 売主側の業者であれば最初の段階から取得していれば、
 きちんとした調査を行っている業者であるという事が出来るでしょう。

 買主側に付く場合には色々な物件を紹介する訳ですから、
 紹介する物件すべてについて報告書を取得する訳にはいきません。
 それでも、購入する物件が確定して、買付申込書やローンの手続きが進んで、
 契約より前の段階で見せてもらえなければ、
 『ちょっとその業者信用できないんじゃーないの?』という事になります。

長々と書いてしまいましたが、実務上の現状の問題提起と改善案、
宅建業者や消費者がそれぞれに出来る事をまとめていますので、一度じっくり読んでみて下さいな。

当記事は2014年8月12日の記事を最新の状況を反映し改稿したものです。