大前提
まず、再び本題に入る前にこの記事の大前提を明示します。
①私は地質や地盤について専門的教育を受けたプロではありません。単なる不動産屋がハザードマップや古地図を見ていて感じた私見を述べるに過ぎません。
②私が現在知りうる情報の範囲では、東区の地下鉄上道路陥没も含め今回の液状化に行政の責任はないと考えています。
液状化の原因と災害対応がどうだ、という話とは別問題です。
③大規模停電については北海道電力の危機管理体制に大きな問題があったと考えています。
『行政の責任』追及は『”市民”の無責任』主張と表裏一体
『札幌市内の大部分の被害はそう大きなものではない』という前提については、色々な異論反論があるものと思います。
しかし、これを『未曾有の大災害』だという風に評価してしまうなら、それは問題でしょう。
将来これよりも大きな災害が起こる可能性は決して低くありません。
そして、今回の災害に『行政の責任』を求める動きには違和感を覚えます。
勿論、今回の行政の震災対応には問題がある部分もありますが、『行政の造成許可や維持管理に問題があったから液状化した!』というのは、あまりにも乱暴に過ぎると思うのです。
前回、『防災カルト』が行き過ぎて何でも国や自治体の責任だと言うようになると、結局、誰も責任を取ってくれなくなりますよと指摘しました。
我々が生きている現実世界にはリスクやコストという物が当然にあって、それを無視した夢想は、現実を生きる人々の害にしかなりません。
札幌は『赤い大地』だと言われますが、今回の災害を『行政の責任だ』と主張する人は東日本大震災当時の東京で東京電力や民主党内閣、菅首相を批判する人より多いように感じます。
①災害に関するリテラシーを高める
阪神大震災はともかく、東日本大震災、熊本地震とこれだけ地震が続いている中で、自分が住んでいる場所の揺れ易さや液状化のし易さくらいの情報は認識しているのは当たり前の事です。
◇ 北海道地震、液状化に怒る住民 「なぜこんな場所に住宅地を許可した!」
・・・などという頭のオカシイ言説を多く見かけますが、いい大人が何を言っているんでしょうか。
40年前の許認可に行政が今更責任を取らなければならないなら、税金が幾らあっても足りませんよ。
せめて、行政自体が行なった事であれば兎も角、許認可は勘弁してやって下さい。
『ならば東区・東15丁目通・東豊線の地盤沈下は?』と聞かれても同じ事で、
①これまで25年間も問題なく使えて来た訳で、
②大きな人的被害も出ていない上に、
③一ヶ月も経たずに復旧出来る程度の被害なら、
それは手抜き工事でも何でもなく、必要十分な工法や仕様だったんじゃないでしょうかねぇ?
②あらゆる資産にリスクが付いて回るのは大前提
これは防災関係やエリアに関する記事を書く度に指摘しているのですが、あらゆる資産にリスクは付いて回るのです。
建物は老朽化するし、燃える事もあるし、地震で傾く事もある。
有価証券や社債はその会社が潰れれば紙クズですし、
銀行が潰れればペイオフによってその銀行の預金の大部分はパーです。
小豆や小麦、原油、金やプラチナといった現物すら価格の変動があるし、
日本円やドルが紙クズになる事はないでしょうが価値は変動します。
勿論、それはマイナスだけではなくプラスに働く事もあります。
もっと言えば、安価な資産ほどリスクは高いというのも常識。
スーパーの見切り品は日持ちが悪いし、百均の商品は壊れやすい。
リスクの低い不動産は高額で、リスクの高い不動産は安価。
土地の場合には軟弱地盤とか利便性が悪いとか、安い理由があるものです。
それが資産の本質であって、リスクが怖けりゃ安価な資産なんて持つなという話でしかありません。
アルゼンチンペソやトルコリラを買っておいて暴落したら騒ぐようなもんです。
しかも、今回の原因は自然災害にある訳で、自治体に責任を求める『ズレ』に辟易してしまいます。
③あらゆる行為にはコストが発生するのも大前提
今回の災害について『ズレてるなぁ~』と思う点として、『自治体は十分な防災対策をしなかった』のか、というとそうとも言えない気がするのです。
いや、この一週間の後処理のまずさを見るに充分な想定とマニュアル化という意味の対策はしてこなかったのでしょうし、北海道電力の危機管理はクソなのですが、清田区の地盤改良が成されていない点を責めるのは、オカシイ。
前回提示した液状化危険度図で『液状化の可能性が高い』とされている地区は他にも大量にある訳です。
その土地すべてに地盤改良を加えるなんて、税金が幾らあっても足りませんよ。
『危険な地域のリスクをきちんと調査すべきだった』
『以前、地盤沈下が起こった時に表面のアスファルト舗装をしただけだった』
・・・いやいや、全部結果論ですぜ、それ。
現在、札幌オリンピックから50年を経て札幌市内のインフラの老朽化は深刻なものがあります。
下水管は折れ、土砂が流出し、アスファルトが陥没した道路は清田区以外にも数え切れないほどあります。
コストを認識せずに『ああしておけば良かったのに』と他人に責任転嫁して許されるのは子供だけです。
④自分の生活に責任を持つのは自分だけ。備蓄はしておけ。
以上を踏まえて、自分の生きる数日分の食料や電力は備蓄しておくのが当たり前の事です。
今回、札幌市内でスーパーやドラッグストアに長蛇の列を作る様子が報道されました。
もちろん余震に備える必要はあるのですが、水も出るしガスも使えるエリアで買い溜めに走る人々の大半は、何も考えずにそうしているように思えます。
子供のいる家庭であっても米やカップ麺が数日分あればどうにでもなるでしょう。
赤ちゃんは?と言われるかもしれませんが、そんなに大事な赤ちゃんならば、普段からきちんと備蓄する事を心掛けましょうよ。
現地における混乱と野次馬根性、それでも私は里塚へ赴く
・・・と、このような混乱が続く中、地震から一週間後の9月13日、商談に向かう途中に現地に立ち寄りました。
一種の野次馬根性ではありますが前回紹介した通り、当初から情報が錯綜して『防災カルト』・・・デマのような話も持ち上がっていた為、自分自身で現地の様子を探って考えをまとめる必要があった為です。
現地には行きましたが、旧道周辺と暗渠の出口を見た他には、非常線の手前から傾いた建物と陥没した道路を遠目から眺めただけです。
ここから非常線の裏手に回ってその奥を・・・という事はしていません。
私は商売で不動産業をやっている訳で、マスコミでもなければこのブログのアクセス稼ぎをしたい訳でもありません。
HTBのアナウンサーが6時間泥に埋まって大迷惑・・・という話も既に広まっていましたし、現地にはナガダマ(望遠レンズ)や三脚を持った報道関係者と思われる人々や不審者も多く見かけました。
東日本大震災の際にも火事場泥棒が多かったと聞いていますし、現在も空き巣被害や不審者情報が多く寄せられているようです。
まー、私も不審者の一人だった訳ですが、あくまでも不動産業の一環として当地の確認を行う必要があると考え、現地調査を行った訳です。
このエリアに関する依頼を受ける事もあるでしょうし、この釈然としない状況に対しては現地を確認しなければ災害に対する知見を得られないと考えたのです。
ホリデー車検の黄色い建物やホテルクラウンの看板は目立つので、報道資料でも土砂が堆積した写真が多く使われました。
車道の汚泥は清掃されていましたが北側の店舗やホテル、事務所、倉庫などの前には汚泥由来の土が積まれていました。
当日は風で火山灰が巻き上げられて悪臭を放ち、目を開けるのが辛い状況でした。
また、粉塵を予防するために散水車が出動していました。
札幌南徳洲会病院の位置から大きく引いて撮影したものです。
旧道は『三里川』や『三里東排水』の位置が一番標高が低くなっており、そこからは再び上り坂になっている事が分かりますね。
『三里川』の暗渠の出口はどうなっている?
『三里川』に沿って発生した今回の液状化ですが、三里川の暗渠部分は非常線が張られており、中を見てゆくことは出来ません。
それでは暗渠部分の出口・・・明渠部分の入口はどうなっているのか見て行きましょう。
明渠に加え3つの暗渠を現況図に落とし込んだものです。
赤い部分が『三里川』の暗渠部分です。
ちなみに下の画像は北海道建設新聞が公開した地図ですが、三里川暗渠の旧道に沿った部分がかなり離れているように見え、あまり良くない図面であると思います。
先ほどの『ホリデー車検清田』と中華料理店『大華飯店』の間にある市道の脇に、『三里川』暗渠の出口はひっそりと存在しています。
長方形のコンクリート製の暗渠の出口が見えます。
かなり草木が生い茂っていて、草刈りなどもされていない様子ですね。
道路面からは約4m程度低い場所に川底があり、コンクリートで作られた特徴のない河川です。
川底に砂利が積もっており、もしかしたらこれは液状化によって流されて来た土砂かもしれません。
原因は『三里川暗渠』の老朽化と氾濫なのか?
今回液状化が生じたエリアは『液状化して当然』のエリアなのか?
つまり、相応の因果関係があって起こった現象なのか否か。
『谷地だったから』『火山灰盛土だから』というのは、要素の一つ一つであるのでしょうが、同じような谷地に火山灰盛土をした場所で同じような現象が生じていない事に注目をしなければなりません。
国土地理院地図を標高45m(青)~80m(緑)で色分けしてみました。
標高図を見ても分かる通り、このエリアに極端な高低差が生じている訳ではありません。
また、殆ど標高差がない事から水勾配が取れていないという事も想定されます。
また、今回の地震に際して国土地理院が発表した札幌市清田区の地形復元図(地形分類図)でも、このエリアの特殊性というのは判別しづらい。
強いて言うならば『氾濫平野・谷底平野』に『低位段丘面』が介在しているという点が特殊なのかもしれませんが、『清田区北野5条2丁目』周辺も同様の地形になっています。
『こういうエリアでは液状化が起こりやすい』というのはハザードマップレベルで証明がされていますが、それは必ずしも『何故このエリアで液状化が起こったのか?』を証明しません。
今回の件では、三里川暗渠の流域に集中的な被害が生じた事からも、三里川暗渠に何らかの個別的な問題が生じたというのが、自然な考えでしょう。
あくまで個人的見解ですが、その『個別的な問題』とは、老朽化による決壊だったのではないか?というのが現在の処の推論です。
繰り返しになりますが、札幌オリンピックから50年を経過する札幌市では実はインフラの老朽化が深刻化しています。
下水管や暗渠が折れると土砂が流出して、路盤が陥没することをシンクホールと言います。(シンクホールという言葉自体は道路の陥没だけを指すわけではないようですが)
福岡市での地下鉄七隈線陥没事故のような事が、三里川暗渠でも起こったのではないか?という疑念があるのです。
非常線の外からでは地盤沈下部分の様子はハッキリと見て取る事は出来ませんが、手前側で行っている復旧作業のトラックを見て、一つ気付きました。
トラックの荷台には直径1m程度で樹脂製の暗渠用配管が積まれています。
インターネットで同じ見た目の配管を探すとコルゲートチューブという商品が出てきますが、樹脂パイプを金属で補強したもので、これも同様の製品でしょう。
暗渠排水は地盤改良の為の手法として最もメジャーな工法です。
土中の水分量が多ければ多いほど、地盤は不安定になります。
地中にある配管に土中の水分を浸透させ、土中の水分量を減らすことで地盤を安定させようという事ですね。
このような形で修繕を加えられており、三里川暗渠で決壊が起こったのか否かの真偽はともかくとして、排水管を埋設する事で地盤の改善を図る方向で進んでいくようです。
仮に原因が三里川暗渠の老朽化だったとしても
つまり、私が考えるところの今回の災害の経緯はこうです。
①三里川暗渠は老朽化して土砂が流出しやすくなっていた。
②台風21号による大雨で土中の水分量が上がっていた。
③胆振東部地震で土砂が液状化して三里川暗渠に流入した。
④前掲の標高図の通り、殆ど勾配がないので、排水不良が生じた。
⑤液状化と排水不良によって下流に土砂が噴出し、陥没が生じた。
仮に、私の予想通り三里川暗渠が老朽化していた事が今回の液状化災害の原因だったとしても、(今のところ)これが行政の責任であるとは考えません。
今後新たに極端な不手際や瑕疵が判明しない限りは、経緯、リスク、コストの面を総合的に勘案してやむを得なかったと言わざるを得ないのではないでしょうか。
『液状化、里塚』を脱却しよう
今回のタイトルは豊平区(当該地は清田区ですが)のキャッチフレーズである『夢開く、花開く、豊平区』にちなんで、『液状化、里塚』などというフレーズを思いついてしまった自分の底意地の悪さに呆れ果てるばかりです。
今回、敢えてこのような意地の悪いフレーズを使ったのかと言えば、全国ネットの地上波放送で池上彰氏に流布された『清田区』全体への偏見を軽減したい、という想いがあります。
そして、札幌市には里塚の液状化被害の原因究明と改修工事について、しっかりと情報開示をして、里塚についてのイメージも改善して欲しい。
中の島の一件についての記事に『何でそんなに中の島の為に頑張ってんの?』というニュアンスのコメントが付いていますが、私は商売で不動産業をやっている人間ですから、不動産の価値が不当に棄損されれば、将来のクライアントの財産価値が下落し、私のインセンティブも減ってしまいますから、ごくごく当然の動きでしょう。
次回は池上彰氏の番組で全国に紹介されたデマについて書いてゆく予定です。
シリーズ『胆振東部地震』
◇胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について
◇清田区里塚で生じた大きな液状化被害と『防災カルト』の蠱惑
◇『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ
◇デマで市域の5.3%を貶めた札幌市民の敵、池上彰氏をどうしてくれようか。