損保協会の地震保険CMが生理的にどうも受け付けない件

先日、東日本大震災から12年を迎えましたね。
ワタクシの人生にとってこの震災、東京から札幌に戻る契機になった事件でもある訳で、
色々と地震については思うところもあり、日本人である以上は避けて通れないものと考えています。
これまでに、不動産のプロとして過去に地震について何度も言及してきたことがあります。

よって、別にアンチ地震保険であるとか、札幌は地震の問題はないとか考えている訳ではないのですが、
損害保険の同業者団体である一般社団法人日本損害保険協会の地震保険のCMがどうにも気持ち悪くて受け付けない、というお話をします。

ちなみに、私自身、損害保険募集人資格を有して損害保険募集業務を行なっているのですが、
検索履歴なども関係してか、Youtube広告にかなりしつこくこのCMが表示され、うんざりしています。
また、論理的に問題のある広告ですので、その点についても言及します。

シリーズ『胆振東部地震』

 ◇胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について
 ◇清田区里塚で生じた大きな液状化被害と『防災カルト』の蠱惑
 ◇『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ
 ◇デマで市域の5.3%を貶めた札幌市民の敵、池上彰氏をどうしてくれようか。
 ◇胆振東部地震から9ヶ月、『液状化、里塚』はどうなった?
 ◇胆振東部地震から1年、里塚の大規模被害は『液状化』が原因ではなかった?!

その他の地震関連記事

 ◇札幌の地盤について 地盤沈下と液状化の目安
 ◇札幌市と地震  過去と将来の液状化現象

知ってるつもりで知らない地震のこと!油断できない大地震篇(北海道版)短尺版

この広告は、地震保険の付帯率が低い地域を対象とした広告で、
おそらくYoutubeにおいては視聴者の居住エリアを対象にリスティングされている広告です。
元サッカー選手の内田篤人氏と慶応義塾大学大学院の纐纈一起(こうけつかずき)氏が出演しています。
それぞれ北海道、東京都、佐賀県、長崎県、沖縄県の5都道県のバージョンが用意されています。

北海道以外のバージョンも確認していますが、北海道編・短尺版が特にキモチワルイ。
それでは、北海道編・短尺版を文字起こししてゆきましょう。

【内田】知ってるつもりで知らない地震のこと 北海道編
    ・・・さて、北海道は地震リスクがそれほど高くないんですが・・・

【纐纈】いいえ、北海道の地質を考えると、決して安全とは言えません。
    北海道は歴史を振り返ってみても大きな地震によって何度か被害を受けているんです。

テロップ:平成30年 北海道胆振東部地震

【纐纈】この地震では火力発電所が被害を受けて全道停電となったことも記憶している方がいらっしゃると思います。
    それと北海道の千島海溝沿いで大きな地震があると言われているんです。

【内田】北海道だって、油断できませんね。
    実際に被害に遭った場合、どういうことが考えられますか?

【纐纈】やはり建物の修繕費や家財の買い替え、当面の生活費など経済的な負担が大きいことです。

【内田】・・・なるほど、それは厳しいですね。

【纐纈】地震保険の加入はかなり重要だと思います。

【内田】いつ来てもおかしくない大地震に備えて・・・
    さぁ、守りを固めよう!・・・地震保険。

このCM、オリコンによってメイキングも公開されているのですが、
5つの都道県ごとに長尺・短尺があり、収録時間の兼ね合いもあってか、
ツギハギで編集されたコラージュのような動画となっています。
オリコンニュースによるCMメイキング動画です。

こちらを見ると分かるのですが、まさにシーンごとのツギハギで作られていて、
私が感じる北海道編・短尺版の気持ち悪さというのは、
このツギハギ編集のまずさによるものであることが分かりました。

別に内田篤人氏や纐纈一起氏を批判するものではないのですが、
まー、学者という形で出演するなら、纐纈氏に関しては、
この編集のマズさに一言あってもよかったんじゃないの、という気はしなくもありません。

・・・で、何が問題なのかと言いますと、既に文字起こしの部分で強調しているのですが、
この地震では火力発電所が被害を受けて全道停電となったというのが北海道における地震被害の例示なのに、
それに対応する策として地震保険の加入はかなり重要と示すのはオカシイでしょう、と。

だって、地震保険は別に停電の被害を補償してくれませんからね。
建物や家財の被害については勿論、保証の対象になる訳ですが、
じゃあ、停電被害が一番大きかった胆振東部地震を例に出すのは論理破綻ではありませんか?

例に挙げられた胆振東部地震では山崩れや農業用の施設の被害が目立ちました。
ただ、そもそも震保険は居住用建物のみが対象で、土地や事業用等の非居住用建物は対象外なんですよね。
つまり、山崩れや地割れが起きようが、畜舎や倉庫が壊れようが、地震保険は下りない訳です。

また、札幌市内においては居住用建物の被害を認められた建物でも多くが
地震保険の付保金額の5~10%のみ認定される『一部損』でした。
ですから、胆振東部地震ほどの規模の地震で、どれだけ地震保険が下りたのか、という視点は重要でしょう。

こういったミスリードを沢山孕んだままできちんとしたリスク説明をせず、
ただ地震保険に加入した方がいい、と説明するのは、明らかにアンフェアであり、
一般社団法人とはいえ、公的な活動を行なっている同業者団体として、問題がある広告であると考えます。

もちろん、『札幌市第3次地震想定』として胆振東部地震より更に大きな地震も想定されていますし、
地震保険自体が無価値なものだとも思いません。
しかしながら、有用なものであってもその販売方法に問題があるのなら、
それは決して肯定されるべきではないでしょう。

長尺版だと短尺版よりは多少マシなのですが、それでもやはり論理としてどうなのかと感じる部分はあります。

特に、地震保険は保険料負担が大きく、経済的な負担が大きな保険であり、
何より、国家の政策として加入を主導している保険であります。
やみくもに不安を煽って、補償内容も十分に告知せずに募集するのでは、
それは官民共犯での詐欺になってしまうでしょう。

地震保険を啓蒙するのであれば、その正しい知識や実態を示すべきではないでしょうか。
少なくとも『この前、2日も停電あったやろ?地震こわいやろ?保険入っと
き?』のような雑な話はやめにしませんかねぇ・・・?

プラス、賃貸オーナー(大家さん)は地震保険に入る必要ないんじゃないの?とも考えているのですが、いつかそんなお話をするかもしれません。