札幌は碁盤の目の街並みである、という事は良く言われていますが、
主に河川や用水の痕跡である斜め通りや地形に合わせた歪曲などの例外があるほか、
碁盤の目を複数結合したエリアというものがあります。
北海道大学、北海道庁、知事公館、そして『植物園』などがあります。
そして植物園には『植物園の耳』と私が称する一帯の民有地があります。
民有地ということは自由に取引がされている訳ですが、現在どのような内容になっているのでしょうか。
地図を見てみましょう。
以上。
・・・という訳にもいかんでしょうね。
これでは記事になりませんから、一つ一つの施設を紹介してゆきましょう。
◇位置指定道路 第5113号
前回紹介した通り『植物園の耳』には、位置指定道路が通っています。
それが昭和49年に指定された位置指定道路 第5113号です。
それまでは非常に雑然としていた『植物園の耳』が整理され、
現在も新たな建物が建てられているのは、この道路の功績です。
道に囲まれた中州部分には『Wall/Wall annex』の駐車場があります。
◇植物園グランドハイツ
昭和51年に竹中工務店によって施工・分譲された地上7階建のマンションです。
『植物園の耳』に現存する共同住宅としては最古の建物であり、
斜めにオーバーハングした壁面は黒川紀章氏の建築を思わせます。
まさに『植物園の耳』を象徴する建物と言っていいでしょう。
現地調査を行なった平成28年当時は大規模修繕の最中でした。
中古物件情報を見ていると分譲マンションとしては珍しく、居住用だけでなく事務所としての利用が認められているようです。
『旧耐震基準』の建物の為、それなりに手頃な価格で流通しています。
南側がこうなっていると、下層階の採光がどうなっているのか、ちょっと心配です。
◇Wall(ウォール)
平成24年築、14階建の建物です。
6階までの低層階がオフィス、7階からの高層階が賃貸マンションのようです。
貸スペースなんかもやっているようです。
ホームページによるとWallとWall annexは株式会社シティーと、株式会社City&Wallという会社が運営しているとのことです。
Wall & Wall annex
http://city-wall.jp/
商業登記などを見るに、株式会社シティーは昭和56年に設立された有限会社村上建築設計室が前身の法人で、株式会社村上オフィスを経て平成14年に現在の商号になっています。
また、株式会社City&Wallは昭和63年に設立し、紙媒体の登記簿は当初の商号は不明ですが、株式会社ウオールという商号から平成16年に変更されています。
設立者は建築士の村上 憲一氏ですが、既に両社の代表を辞任しており、インターネット上では断片的な情報しか拾えませんが、一級建築士事務所である株式会社アトリエジーセブンを主宰していたり、関西国際大学のシニア学生をやったり、諸々の特許を取得したりと、活動は多岐に渡るようです。
◇Wall annex(ウォールアネックス)
7階建で、すべての階層がオフィスになっているようです。
正確な築年数はインターネット検索では出てきませんし、
登記情報を調べてもいませんから、分かりません。
左側が『ウォールアネックス』です。
どうも、平成11年頃には既にある建物のようですが、
アネックス(別館)の方が先に建っている、というのは不思議な気がします。
会社の履歴なども考えると、現在『ウォール』が建っている場所に旧『ウォール』が建っていたのかな、という気もします。
建物の登記や住宅地図を調べれば分かることですが、あえて調べていません。
だって、平成になってからの話なんか、別に金さえあれば誰にだって簡単に調べられる訳ですから。
◇インファス(INFUS)
平成13年築の8階建のいわゆるリーガルビルです。
『いわゆるリーガルビル』というのは、法曹ビルとも呼ばれますが、
法曹関係の有資格者事務所が多数入居しています。
弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーと文系法律系資格の見本市ですね。
5~7階の3フロアを使用している村松 弘康弁護士事務所は、所属弁護士数も圧巻の多人数ですね。
法科大学院(ロースクール)の設置によって弁護士の増え方というのは雨後の竹の子とも言っていいレベルですが、それでも15人超の弁護士事務所は札幌では片手で数えられるはずですから、市内最大手の事務所の一つ、と言えるでしょう。
村松 弘康弁護士は昭和21年陸別町生まれ、面識はありませんが平成30年で72歳になられる方です。
案内板では7階までの表記ですが、建物はどうみても8階建てです。
建物所有者のオーナーズルームでしょうかね。
(村松弁護士が賃貸なのか、建物のオーナーなのかは登記を調査していません。)
◇コンフォリア札幌植物園
平成18年築、15階建ての高級賃貸マンションです。
『東急不動産の都市型賃貸』として豪華なホームページが用意されています。
【公式】コンフォリア札幌植物園|西11丁目駅の高級賃貸マンション
http://www.comforia.jp/resi/sapporoshokubutuen/index.html
公式サイトによると追い焚機能、ミストサウナ、宅配ボックス、食器洗浄機、シューズインクローゼットなど設備の充実した2LDK~3LDKのマンションで、築10年を経過していますが募集賃料は16万円程度。
関東の相場では格安ですが、札幌の相場を考えれば十分に『高級』マンションです。
この建物、旧名称はアーデンコート植物園となっていました。
これは、平成28年にコンフォリア・レジデンシャル投資法人に『信託受益権』が移った為、名称が変更されたものです。
コンフォリア・レジデンシャル投資法人というのは東急不動産グループの投資法人です。
『信託受益権』は不動産の流動化のための制度で、『所有権』は信託銀行が所持したまま、その不動産から得られる利益を『信託受益者』に支払われるというものです。
では、『所有権』は誰にあるかと言うとみずほ信託銀行株式会社が管理し、信託を受託しています。
この土地は過去に住友不動産株式会社が所有していたこともあったようですから、財閥系の不動産会社のうち、関わっていないのは三井不動産だけなのでは?という気もしています。
こういう大きくて新しい物件というのは、地場の業者である我々が取り扱うチャンスが来るのは、築年数がだいぶ経ってから、というのが現実です。
◇個人住宅
植物園の耳の集合住宅群に囲まれた唯一の戸建て住宅として、Kさんという方がお住まいの2階建+地下1階付の建物があります。
個人住宅についてあれこれ調べたものを公開してしまうと、トラブルになる可能性があるので差し控えさせて頂きますが、イマドキGoogleストリートビューもありますから、大変恐縮ですが建物の外観については掲載させて頂きます。
っていうか、Googleストリートビューで表札が判読出来るんですけどね。
モザイク機能、もうちょっと発展してくれてもいいと思うのですが・・・
◇月極駐車場/専用駐車場
『植物園の耳』の北東部には株式会社トーショウビルサービスが管理する月極駐車場と専用駐車場が併設されています。
土地の所有はどちらも神原商事株式会社であるように見えます。(登記は調べてません。)
神原商事株式会社は札幌では老舗のベアリングや機械の卸売り業者です。
神原商事株式会社
http://www.kambara-shoji.co.jp/info.html
会社概要によると、昭和25年から平成2年の40年間に渡ってこの場所に本社があったとのことです。
まぁ確かにここに本社があるよりは、広い郊外に本社を移してこちらは賃貸で回しておいた方が商売上、効率が良いでしょう。
ちなみに位置指定道路 第5113号を申請したのも神原商事株式会社です。
◇コインパーキング タイムズ
ここからは南西側の空き地に目を移してゆきましょう。
一番南西角の土地とグランドハイツ植物園の間に挟まれているのが、コインパーキングの『タイムズ』です。
タイムズについては説明不要ですね、しかし平成28年の調査時にはこの土地には東急不動産の『ブランズ マンションギャラリー』がありました。
現在は既に解体・撤去されていますが、このモデルルームが設置される前も、タイムズとしてタイムパーキング事業がされていたようです。
このように流動的な土地利用が可能なのも、タイムパーキング事業の魅力ですね。
◇コインパーキング アルファパーク
そして最後は南西角地の株式会社アルファコートが管理するタイムパーキングです。
アルファコート株式会社
http://www.alphacourt.jp/
こちらの会社は平成16年設立と社歴は浅いですが、札幌の不動産投資で多様な動き方をしており、市内各所に中古ビルを取得しているほか、新築事業も盛んです。
自己所有物件も相当数ありますが、投資家から土地建物を預かって管理運営をする事業も行っています。
投資家に賃貸マンションや介護施設を新築したり、駐車場を管理したりということですね。
この土地については 所有者は調査していませんからアルファコート株式会社なのか、その顧客なのかは分かりません。
角地ですから、この土地もいずれは分譲か賃貸のいずれかのマンションが建築されてゆくのでしょう。
◇消えていった戸建住宅
現在は2つのタイムパーキングとなっている南西角の一角ですが、
少し前までは4戸の戸建住宅が建っていました。
Googleストリートビューのタイムマシン機能、非常に便利ですね。
・・・と、言う訳で今回は『植物園の耳』の現在の姿を紹介しました。
街は常に変化を続け、従来、その記録は僅かしか残りませんでした。
しかし、デジカメやPC、インターネットとスマートフォンといったコンピュータの普及によって社会のストレージは非常に拡大し、過去の街の姿は残されてゆくようになるのかもしれません。
その分、限られた資料から過去の姿を再構築して、共有するということは非常に価値があると考えています。
次回以降、お決まりの古地図と航空写真から過去の姿を見てゆきましょう。
シリーズ『植物園の耳』
◇『植物園の耳』① 探ると消される?!『植物園の耳』のナゾ
◇『植物園の耳』② 魔境『植物園の耳』の現在の姿 -建物・道路の構成-
◇『植物園の耳』③ 古地図から見る明治・大正の植物園の変遷
◇『植物園の耳』④ 『植物園の耳』はどのように民有地となって現在に至るのか?
◇『植物園の耳』⑤ 植物園の耳の一大所有者にして名士『林文次郎』氏の人生
◇『植物園の耳』⑥ 歴史的経緯に関しての時系列的まとめ
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