胆振東部地震から1年、里塚の大規模被害は『液状化』が原因ではなかった?!

厚真を中心として甚大な被害を生じた北海道胆振東部地震の発生から今日で丁度1年となります。
札幌市における胆振東部地震での被害は、完全復旧までに二日を要した大規模停電と『液状化』被害であったと言われています。
液状化被害については、特に里塚1~2条や東豊線直上の東15丁目通の一部地域が甚大な被害が生じました。

しかし、今になってこれがいわゆる『液状化』による被害ではない可能性が出てきたのです。

シリーズ『胆振東部地震』

 ◇胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について
 ◇清田区里塚で生じた大きな液状化被害と『防災カルト』の蠱惑
 ◇『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ
 ◇デマで市域の5.3%を貶めた札幌市民の敵、池上彰氏をどうしてくれようか。
 ◇胆振東部地震から9ヶ月、『液状化、里塚』はどうなった?

地震当時の報道



土砂崩れによって山肌が露わになった厚真地区の山林とともに、里塚で土砂が噴出し、1~2mの高さの汚泥で道路が埋め尽くされ、多数の建物が傾斜した光景は非常なショッキングなものとして報道されました。

更に池上彰の特番では、全国ネットでその原因が『清田区』が水田であったことによる『液状化』であると大々的に報じられました。

まぁ、これはひどいデマだった訳ですが、その辺りの事情は『デマで市域の5.3%を貶めた札幌市民の敵、池上彰氏をどうしてくれようか。』で言及しました。
Google検索で『池上彰 デマ』で検索をすると1年経ってもこの記事が表示される平均検索順位は10.2位との事です。

私の指摘

インターネット上では、地震から数日で『この地震はハザードマップで予知されていた』とか池上彰の番組に影響されたのか『この地帯は水田地帯だったので液状化した』という言説が散見されました。
確かに、この地域の一部は札幌市のハザードマップで『液状化の可能性が高い』と判定されていますが、一方で他に幾らでも赤いエリアはあるのに、他では深刻な液状化被害は生じていない事が説明出来ません。

また、水田であったから液状化した、という点については、池上彰の特番の他に戦前から戦後にかけての地形図で水田の地図記号が並んでいたことに端を発していたようです。

しかしながら、航空写真を見るに一定規模以上の営農が行なわれていたようには見えません。
傾斜地で出来る間に合わせの農業として、わずかに棚田があっただけのように見えます。

また、被害甚大な部分が三里川暗渠に沿っていたことから原因として浮上してきたのが、暗渠が液状化の原因であるというもの。

 
しかし、 同様の暗渠は近隣の『三里東排水』『里塚西排水』など多数あるのに、そちらでは『三里川』ほど大きな被害は出ていません。

つまり、胆振東部地震では、三里川暗渠の流域に集中的な被害が生じた事からも、三里川暗渠に何らかの個別的な問題が生じたのではないか。

あくまで個人的見解ではありますが、その『個別的な問題』とは、老朽化による決壊だったのではないか?と推察し、札幌オリンピックから50年を経過する札幌市では問題となっているインフラの老朽化について指摘しました。

札幌市の発表

しかしながら、札幌市の発表では、この被害をあくまでも単なる液状化として取り扱っています。
以下は札幌市ホームページで公表されている里塚の住民説明会の資料を抜粋したものです。

液状化した土砂が三里川排水に流入して土砂が流出し、地中が空洞化したという説明で、なぜ局地的な被害が生じたのか、という説明はなされていないように思います。

暗渠の排水が漏れ出していたのが原因?

今年6月に、この被害について新たな原因を示す記事が掲載されました。
あまり取り上げられていない記事ですが、重要な知見と考えます。
令和元年6月2日の北海道新聞の記事を引用します。(朱筆は私によるものです。)

土砂流出、空洞が原因か 里塚液状化 現地調査の教授報告
昨年9月の胆振東部地震による液状化で、地盤被害などが出た札幌市清田区里塚1で、地下水を集めて下流に流す地下排水溝(暗きょ)の上に地震前から空洞があり、この空洞が大規模な土砂流出を起こした可能性のあることが1日、札幌市内で開かれた「欠陥住宅被害全国連絡協議会」全国大会で報告された。調査に当たった国士舘大の橋本隆雄教授(防災工学)は「全国的にも例が少ない現象」と話した。

 協議会は地震被害などに取り組む全国の弁護士や建築士らでつくる。

 橋本教授は地震直後から土木学会のメンバーとして現地調査を重ね、開発事業に伴う地盤被害を防ぐ「宅地防災マニュアル」ができる1989年以前は、地下排水溝同士の接続方法が簡易だったと説明。「地震前から地下排水溝の水が漏れ、地中の空洞に多くの水が滞留し、その水を含んだ土砂が地震によって大量に流動した」と取材に対し指摘した。その証拠として、一般的な液状化で見られる「噴砂」が里塚では少なく、土砂が地中で水平方向に動いたと分析した。

 札幌市によると、液状化の地盤沈下被害があった里塚1の地下排水溝は78~84年に宅地造成した民間業者が市の許可を得て設置。市の推計では地震後約1時間で約1万立方メートルの土砂が流出した。これまで市は液状化による大量の土砂流出は、地下水位より下の盛り土部分の軟弱地盤が地震で液状化し、緩い傾斜地に沿って土砂が帯状に流動したと分析している。(久保吉史)

以上が引用です。

ごく簡単に説明をすると三里川暗渠では排水溝同士の接続が簡易であり、その隙間に水が入り込み、土砂を流出させて地下に空洞を生じさせていたものが、台風と地震のダブルパンチで急激に悪化したということです。
つまり、暗渠に個別的な問題・欠陥が生じていたのではないか、という私の推測を補強するものと考えます。

河川の維持管理は札幌市の責任、と責任転嫁するのは簡単ですが

三里川暗渠は札幌市河川管理課が管理する河川です。
しかし、この災害の責任を札幌市に求める考え方には賛同出来かねます。

そもそも、昭和54年に札幌市から許認可を得て三里川暗渠を設置したのは株式会社じょうてつであって、その施工の仕様について、札幌市が管理するのは困難であったでしょう。
竣工から40年が経って老朽化している部分もあるでしょうから、株式会社じょうてつに責任を求めるのも、筋違いと感じます。

では何が出来たのか、と考えたときに、札幌市に瑕疵があったと言えるのか、ということです。
例えば、基準が甘かった1989年以前の暗渠すべてを点検・補修することが出来たのでしょうか。
上記の河川網図でも分かる通り、実は暗渠というものはかなり多く存在しています。
自治体は限られた予算の中で運営していますから、その分他の予算が割を食ってしまいます。
仮に点検の結果、補修の必要が出たとして、約2m四方のコンクリートで出来た暗渠を補修するのに、地面を掘り返すのですから、自動車の通行は一定期間不可能になりますし、公共工事費も多額に上るでしょう。

これは不幸な河川災害ではありますが、それ以上でもそれ以下でもない、というのが私の考えです。
例えば堤防が決壊したであるとか、津波に襲われたという時に、国や自治体に明らかな不備がない状態なのに、恨み言を言い続けるというのは、怒りの宛所がないのは理解出来ますがちょっとどうなのかな、と言わざるを得ません。

自然災害の被害者に対して『仕方ない』で片付けるのは非情ですが、だからといって被害者が国や自治体に何を言ってもいいという話にはならないと思うのです。

ニュースソースとさせてもらって恐縮ですが、北海道新聞の報道姿勢にも、疑問を感じています。

この災害が、次の災害を生まない教訓になることを願います。

胆振東部地震から9ヶ月、『液状化、里塚』はどうなった?

シリーズ『胆振東部地震』
 ◇胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について
 ◇清田区里塚で生じた大きな液状化被害と『防災カルト』の蠱惑
 ◇『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ
 ◇デマで市域の5.3%を貶めた札幌市民の敵、池上彰氏をどうしてくれようか。

『液状化、里塚』から9ヶ月

平成30年9月6日、北海道全土を大停電に巻き込んだ『胆振東部地震』から、9ヶ月が経過します。
『震災』というのは言葉の定義があるので、私は使いたくないのですが、札幌では簡単に『地震災害』の略として『震災』と使っている方が多いですね。
厚真を中心とした土砂崩れの被害は本当に痛々しいものがありましたが、実は札幌市周辺の被害は全然大したことがない、と当時からあえて言っていました。
震源地を除く北海道全土の問題は、2日に渡る大停電であって、かつて起こった平成のどんな大きな地震でもこのようなことはありませんでした。
これは北海道という島は本州よりも電力の相互的融通が出来ないという事情にもよるそうですが、それ以前の問題として北海道電力の危機管理の問題であると考えています。

そんな中で、札幌市内で甚大な被害が生じたのが札幌市清田区里塚1条1~2丁目での液状化現象です。

池上彰氏のデマ報道もひどいもので、『池上彰 デマ』の検索結果では当ブログもかなり高い位置にいるような状況です。

車まで埋まる汚泥と建物の大きな傾斜はかなりのショックを与えました。
札幌市民としては、里塚の液状化と東豊線の地盤沈下によって、地盤の良し悪しや不動産価値が話題となりました。

雪解け以降は、三里川暗渠や里塚東排水などの上流でも液状化が確認されたとの報道があります。

報道されない里塚のその後と住民の自警活動

しかしながら、その後の状況については、9ヶ月を経過しても詳しいことは全く分からないままです。
基本的にテレビを見ない人なので、北海道ローカル局での扱いはよくわかりませんが、インターネットで『里塚 液状化』と検索をしても昨年9月当時の報道しか表示されないのを鑑みるに、その後の報道はほとんどされていないようです。

北海道新聞の電子版を見るに年が明けてからも何度か記事が出ていますが、現地の写真などは見られません。
詳細な報道と言えばUHBの特集番組『傾き続ける我が家 ~がんばるべぇさとづか~』程度でしょうか。

以前紹介した通り、元々、地震発生当時から、旧国道36号線を除く液状化発生箇所には非常線が張られ、立入禁止になっていました。

SNSなどでは、立入禁止区域に入り込んで現地の写真を撮影する人や、災害時に多く見られる火事場泥棒などが問題視されていました。
それだけではなく、放火やいたずらなどの恐れがありますし、悪気がなくとも地盤の陥没などで怪我をしてしまう可能性もあります。

その為、被災時から平成31年3月7日までの間、通行規制が行われていました。
これはやむを得ない・・・というか当然の措置であったと考えています。

また、防犯の為、平成30年12月13日から4台のカメラが設置されました。

北海道文化放送(HBC)の報道によると防犯カメラは令和元年5月28日に8台が増設されたそうです。
「知らない人に自分の家が撮られて…(SNSに上げられたと)実際に聞いたこともありますから。残念というか、さみしくなりますよね」(里塚中央災害復興委員会・今北秀樹さん)
『液状化とは“別の悩み”…防犯カメラ8台増設 地震で被害の札幌市清田区里塚地区 北海道』https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190528-00000011-hbcv-hokより引用

封鎖が解除された里塚1条2丁目に立ち入る

公的な交通規制が敷かれている中で立入禁止区域に立ち入ることは言語道断です。
また、住居の敷地に許可なく立ち入ることは住居侵入罪にあたります。

しかしながら、前述の通り今年3月に交通規制は既に解除されている中で、住居の敷地に立ち入らないのであればそれは合法な行為です。
被災地の状況がその後どうなったのか、という事が調べてもほとんど分からないような現状は、健全であるとは思えません。

不動産流通の健全性を担保する為には、少なくとも下記の3つが明確化されていなければならないと考えます。
 ①どのような原因で現象が生じたか
 ②どのような被害があったのか
 ③それらの被害はどのように対策されて復興したのか

①原因については当時推察をしたのに加え、後日別途記事を用意します。
③対策についても、札幌市の住民説明会資料を中心に後日別途記事を用意します。

今回は②被害について、その状況を紹介してゆきます。

地震の当時、大量の汚泥にまみれた様子が報道された旧国道36号線沿いは、ほとんど回復しています。
ただ、泥が噴出した痕跡や歩道の縁石のズレなどは生じています。

ここから、液状化の原因となった『三里川暗渠』沿いの住宅地に入ってゆきましょう。
各所に道路の陥没が見られ、それが土嚢で応急処置されています。



ブロック塀や擁壁ごと沈み込んでいる
箇所が多く見られます。
更には、擁壁ごと崩壊している宅地も多数あり、重力で支えた地盤が地中から空洞化してしまった場合の危うさを思い知らされます。

併せて、復旧した地盤と宅地との間の高低差が1m程にもなっている箇所も複数あります。

公園は、道路や民有宅地内とは異なった復旧方法を採って水はけを良くして水を溜め込む雨水調整池のような用途とするようで、現在、砂利敷きを行なっています。

住民による自警活動の是非

前述の通り、交通規制は解除されていますが、現在も警備の為に『里塚中央ぽぷら公園』には札幌市の現地事務所の脇に警察車両が停まっています。

警察による警備以上に、町内会の有志による自警活動が盛んなようです。
各種の報道でも防犯の為に町内会の自警活動を行っている事が触れられていますし、前述の通り、町内会の負担で監視カメラを増設しているようです。

私も、現地を歩いていた処、遠くから大声で『オイ、アンタ』と高齢の男性に呼び止められました。

男性:『あんた、なにもんだ?』
私:『不動産業者の者です。』
男性:『何しに来たの』
私:『地震後の周辺状況を確認しに来ました。将来このエリアの土地を取り扱うこともありますので。』
男性:『どこの会社の人?』
私:『株式会社○○○○○○○○の細井と申します』
男性:『身分証明書出して』
私:『え?』
男性:『身分証ないの?』
私:『いや、いきなり一方的に身分証を見せろと言われてもアンフェアな気がするんですが・・・』
男性:『(町内会の腕章を見せて)私ね、ここの町内会の○○ってもんです』
私:『(ポケットに何も入っていないジェスチャーをして)すみません、今、身分証持ち歩いていませんで

(これは嘘ではなくスマホ以外は手ブラで行動しており、本当に持ち歩いていませんでした。)
男性:『この辺、物騒だからね、警察も毎日来てるし、アンタも気を付けなよ
私:『はぁ・・・』

別に手荷物検査を受けたとか身分証の提示を強制されたという訳ではないですし、身体的拘束を受けたという訳ではありませんから、これはギリギリ通常のコミュニケーションの範疇と考えます。
ただ、かなりピリピリとしていた様子で、攻撃的な対応であったことは間違いなありません。
いや、まぁ、私自身、不審者扱いされるのは致し方ないとは思うのですが、こういった自警活動がどこまで正当化されるのか、という疑問は正直あります。

勿論、前述の通り、火事場泥棒や放火、住居侵入などの犯罪の恐れがある以上、それを防ぐ目的で警察でカバー出来ない部分を自警活動で補おうというのは、至極当然の事です。

しかしながら、これだけ大きな被害があったエリアの被害状況がほとんど表に出てこないというのは、異常でしょう。
過去の十勝沖地震の際には、同じ清田区の美しが丘地区で液状化被害が発生しましたが、その際には『大ごとにしないでほしい』との住民からの要望があったという報道があります。

また、今回の里塚地区でも、住民からの札幌市や分譲業者への厳しい責任追及がある一方で、現地への立入りや報道の拒否があるそうです。

里塚で何が起こったのかが覆い隠されたままでいいのでしょうか?
果たして、このまま里塚の被害状況が覆い隠されたままでいいのでしょうか?
 

仮に、将来このエリアの土地を買おうという人がいた場合に、どのような被害があったのか、そしてどのような対策がされたのかという事が明確化されていなければ、安心して購入することは出来ないでしょう。

一方で、広く清田区の土地を購入したいという人がいたとして、どのエリアでどのような被害が生じたのかが明確化されていなければ、清田区の土地を買おうという気が起こらず清田区全体の不動産価値が下落してしまいます。

この町内の人々はご自身の所有する土地を将来売りに出そうという時に、こういった事実を覆い隠したまま売却しようというのでしょうか。

私は、池上彰氏がいい加減な情報で清田区全体の財産価値を棄損した際、それをこのブログで糾弾しました。

今回の記事では法令を遵守したほか、極力建物本体が写り込んでいない写真を選んで掲載していましたが、恐らくはこのような記事も自警活動を行っている町内会の方にとっては不愉快な存在であろうかと思います。

ただ、事実を明確化して社会として共有することが、里塚1条2丁目の方にとっても、それ以外の里塚や清田区の方にとっても、これから不動産を購入しようという方にとっても、仲介をする不動産業者にとっても・・・それが結果的に公益に資すると信じ、この記事を公開する次第です。

『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ

大前提

まず、再び本題に入る前にこの記事の大前提を明示します。
①私は地質や地盤について専門的教育を受けたプロではありません。単なる不動産屋がハザードマップや古地図を見ていて感じた私見を述べるに過ぎません。
私が現在知りうる情報の範囲では、東区の地下鉄上道路陥没も含め今回の液状化に行政の責任はないと考えています。
 液状化の原因と災害対応がどうだ、という話とは別問題です。
③大規模停電については北海道電力の危機管理体制に大きな問題があったと考えています。

『行政の責任』追及は『”市民”の無責任』主張と表裏一体

『札幌市内の大部分の被害はそう大きなものではない』という前提については、色々な異論反論があるものと思います。
しかし、これを『未曾有の大災害』だという風に評価してしまうなら、それは問題でしょう。
将来これよりも大きな災害が起こる可能性は決して低くありません。

そして、今回の災害に『行政の責任』を求める動きには違和感を覚えます。
勿論、今回の行政の震災対応には問題がある部分もありますが、『行政の造成許可や維持管理に問題があったから液状化した!』というのは、あまりにも乱暴に過ぎると思うのです。

前回、『防災カルト』が行き過ぎて何でも国や自治体の責任だと言うようになると、結局、誰も責任を取ってくれなくなりますよと指摘しました。

我々が生きている現実世界にはリスクコストという物が当然にあって、それを無視した夢想は、現実を生きる人々の害にしかなりません。

札幌は『赤い大地』だと言われますが、今回の災害を『行政の責任だ』と主張する人は東日本大震災当時の東京で東京電力や民主党内閣、菅首相を批判する人より多いように感じます。

①災害に関するリテラシーを高める
 阪神大震災はともかく、東日本大震災、熊本地震とこれだけ地震が続いている中で、自分が住んでいる場所の揺れ易さや液状化のし易さくらいの情報は認識しているのは当たり前の事です。
 ◇ 北海道地震、液状化に怒る住民 「なぜこんな場所に住宅地を許可した!」
 ・・・などという頭のオカシイ言説を多く見かけますが、いい大人が何を言っているんでしょうか。
 40年前の許認可に行政が今更責任を取らなければならないなら、税金が幾らあっても足りませんよ。
 
 せめて、行政自体が行なった事であれば兎も角、許認可は勘弁してやって下さい。
 『ならば東区・東15丁目通・東豊線の地盤沈下は?』と聞かれても同じ事で、
 ①これまで25年間も問題なく使えて来た訳で、
 ②大きな人的被害も出ていない上に、
 ③一ヶ月も経たずに復旧出来る程度の被害なら、
 それは手抜き工事でも何でもなく、必要十分な工法や仕様だったんじゃないでしょうかねぇ?

②あらゆる資産にリスクが付いて回るのは大前提
 これは防災関係やエリアに関する記事を書く度に指摘しているのですが、あらゆる資産にリスクは付いて回るのです。
 建物は老朽化するし、燃える事もあるし、地震で傾く事もある。
 有価証券や社債はその会社が潰れれば紙クズですし、
 銀行が潰れればペイオフによってその銀行の預金の大部分はパーです。

 小豆や小麦、原油、金やプラチナといった現物すら価格の変動があるし、
 日本円やドルが紙クズになる事はないでしょうが価値は変動します。

 勿論、それはマイナスだけではなくプラスに働く事もあります。

 もっと言えば、安価な資産ほどリスクは高いというのも常識
 スーパーの見切り品は日持ちが悪いし、百均の商品は壊れやすい。
 リスクの低い不動産は高額で、リスクの高い不動産は安価。
 土地の場合には軟弱地盤とか利便性が悪いとか、安い理由があるものです。

 それが資産の本質であって、リスクが怖けりゃ安価な資産なんて持つなという話でしかありません。
 アルゼンチンペソやトルコリラを買っておいて暴落したら騒ぐようなもんです。
 しかも、今回の原因は自然災害にある訳で、自治体に責任を求める『ズレ』に辟易してしまいます。

③あらゆる行為にはコストが発生するのも大前提
 今回の災害について『ズレてるなぁ~』と思う点として、『自治体は十分な防災対策をしなかった』のか、というとそうとも言えない気がするのです。
 いや、この一週間の後処理のまずさを見るに充分な想定とマニュアル化という意味の対策はしてこなかったのでしょうし、北海道電力の危機管理はクソなのですが、清田区の地盤改良が成されていない点を責めるのは、オカシイ。

 前回提示した液状化危険度図で『液状化の可能性が高い』とされている地区は他にも大量にある訳です。
 その土地すべてに地盤改良を加えるなんて、税金が幾らあっても足りませんよ。

 『危険な地域のリスクをきちんと調査すべきだった』
 『以前、地盤沈下が起こった時に表面のアスファルト舗装をしただけだった』
 ・・・いやいや、全部結果論ですぜ、それ。

 現在、札幌オリンピックから50年を経て札幌市内のインフラの老朽化は深刻なものがあります。
 下水管は折れ、土砂が流出し、アスファルトが陥没した道路は清田区以外にも数え切れないほどあります。
 コストを認識せずに『ああしておけば良かったのに』と他人に責任転嫁して許されるのは子供だけです。

自分の生活に責任を持つのは自分だけ。備蓄はしておけ。 
 以上を踏まえて、自分の生きる数日分の食料や電力は備蓄しておくのが当たり前の事です。
 今回、札幌市内でスーパーやドラッグストアに長蛇の列を作る様子が報道されました。
 もちろん余震に備える必要はあるのですが、水も出るしガスも使えるエリアで買い溜めに走る人々の大半は、何も考えずにそうしているように思えます。

 子供のいる家庭であっても米やカップ麺が数日分あればどうにでもなるでしょう。
  赤ちゃんは?と言われるかもしれませんが、そんなに大事な赤ちゃんならば、普段からきちんと備蓄する事を心掛けましょうよ。

現地における混乱と野次馬根性、それでも私は里塚へ赴く

・・・と、このような混乱が続く中、地震から一週間後の9月13日、商談に向かう途中に現地に立ち寄りました。

一種の野次馬根性ではありますが前回紹介した通り、当初から情報が錯綜して『防災カルト』・・・デマのような話も持ち上がっていた為、自分自身で現地の様子を探って考えをまとめる必要があった為です。

現地には行きましたが、旧道周辺と暗渠の出口を見た他には、非常線の手前から傾いた建物と陥没した道路を遠目から眺めただけです。

ここから非常線の裏手に回ってその奥を・・・という事はしていません。

私は商売で不動産業をやっている訳で、マスコミでもなければこのブログのアクセス稼ぎをしたい訳でもありません。
HTBのアナウンサーが6時間泥に埋まって大迷惑・・・という話も既に広まっていましたし、現地にはナガダマ(望遠レンズ)や三脚を持った報道関係者と思われる人々や不審者も多く見かけました。

東日本大震災の際にも火事場泥棒が多かったと聞いていますし、現在も空き巣被害や不審者情報が多く寄せられているようです。

まー、私も不審者の一人だった訳ですが、あくまでも不動産業の一環として当地の確認を行う必要があると考え、現地調査を行った訳です。
このエリアに関する依頼を受ける事もあるでしょうし、この釈然としない状況に対しては現地を確認しなければ災害に対する知見を得られないと考えたのです。

液状化から一週間後の里塚旧道

散々能書きを垂れましたが、室蘭街道の旧道を見てゆきましょうか。

入口部分はかなり急な下り道になっており、崖を切り抜いたカーブは結構な難所であったことを想起させます。
札幌から北広島への方向の右側・・・北側には非常線が張られており、液状化によって大きく地盤沈下したエリアは通行禁止となっています。


 歩道のアスファルトの亀裂・陥没がかなり目立ちますね。
写真右=北側が『ホテルクイーン』、『ホリデー車検清田』、左=南側には『ホテルクラウン』があります。
このホテルというのはどちらもいわゆるラブホテルですね。

ホリデー車検の黄色い建物やホテルクラウンの看板は目立つので、報道資料でも土砂が堆積した写真が多く使われました。

車道の汚泥は清掃されていましたが北側の店舗やホテル、事務所、倉庫などの前には汚泥由来の土が積まれていました。
当日は風で火山灰が巻き上げられて悪臭を放ち、目を開けるのが辛い状況でした。
また、粉塵を予防するために散水車が出動していました。

札幌南徳洲会病院の位置から大きく引いて撮影したものです。

旧道は『三里川』や『三里東排水』の位置が一番標高が低くなっており、そこからは再び上り坂になっている事が分かりますね。

『三里川』の暗渠の出口はどうなっている?

『三里川』に沿って発生した今回の液状化ですが、三里川の暗渠部分は非常線が張られており、中を見てゆくことは出来ません。
それでは暗渠部分の出口・・・明渠部分の入口はどうなっているのか見て行きましょう。

明渠に加え3つの暗渠を現況図に落とし込んだものです。
赤い部分が『三里川』の暗渠部分です。
ちなみに下の画像は北海道建設新聞が公開した地図ですが、三里川暗渠の旧道に沿った部分がかなり離れているように見え、あまり良くない図面であると思います。

先ほどの『ホリデー車検清田』と中華料理店『大華飯店』の間にある市道の脇に、『三里川』暗渠の出口はひっそりと存在しています。

長方形のコンクリート製の暗渠の出口が見えます。

かなり草木が生い茂っていて、草刈りなどもされていない様子ですね。

道路面からは約4m程度低い場所に川底があり、コンクリートで作られた特徴のない河川です。

川底に砂利が積もっており、もしかしたらこれは液状化によって流されて来た土砂かもしれません。

原因は『三里川暗渠』の老朽化と氾濫なのか?

今回液状化が生じたエリアは『液状化して当然』のエリアなのか?
つまり、相応の因果関係があって起こった現象なのか否か。
谷地だったから』『火山灰盛土だから』というのは、要素の一つ一つであるのでしょうが、同じような谷地に火山灰盛土をした場所で同じような現象が生じていない事に注目をしなければなりません。

国土地理院地図を標高45m(青)~80m(緑)で色分けしてみました。
標高図を見ても分かる通り、このエリアに極端な高低差が生じている訳ではありません。
また、殆ど標高差がない事から水勾配が取れていないという事も想定されます。

また、今回の地震に際して国土地理院が発表した札幌市清田区の地形復元図(地形分類図)でも、このエリアの特殊性というのは判別しづらい。
強いて言うならば『氾濫平野・谷底平野』に『低位段丘面』が介在しているという点が特殊なのかもしれませんが、『清田区北野5条2丁目』周辺も同様の地形になっています。

『こういうエリアでは液状化が起こりやすい』というのはハザードマップレベルで証明がされていますが、それは必ずしも『何故このエリアで液状化が起こったのか?』を証明しません。

今回の件では、三里川暗渠の流域に集中的な被害が生じた事からも、三里川暗渠に何らかの個別的な問題が生じたというのが、自然な考えでしょう。

あくまで個人的見解ですが、その『個別的な問題』とは、老朽化による決壊だったのではないか?というのが現在の処の推論です。
繰り返しになりますが、札幌オリンピックから50年を経過する札幌市では実はインフラの老朽化が深刻化しています。

下水管や暗渠が折れると土砂が流出して、路盤が陥没することをシンクホールと言います。(シンクホールという言葉自体は道路の陥没だけを指すわけではないようですが)
福岡市での地下鉄七隈線陥没事故のような事が、三里川暗渠でも起こったのではないか?という疑念があるのです。


非常線の外からでは地盤沈下部分の様子はハッキリと見て取る事は出来ませんが、手前側で行っている復旧作業のトラックを見て、一つ気付きました。


トラックの荷台には直径1m程度で樹脂製の暗渠用配管が積まれています。
インターネットで同じ見た目の配管を探すとコルゲートチューブという商品が出てきますが、樹脂パイプを金属で補強したもので、これも同様の製品でしょう。

暗渠排水は地盤改良の為の手法として最もメジャーな工法です。
土中の水分量が多ければ多いほど、地盤は不安定になります。
地中にある配管に土中の水分を浸透させ、土中の水分量を減らすことで地盤を安定させようという事ですね。

このような形で修繕を加えられており、三里川暗渠で決壊が起こったのか否かの真偽はともかくとして、排水管を埋設する事で地盤の改善を図る方向で進んでいくようです。

仮に原因が三里川暗渠の老朽化だったとしても

つまり、私が考えるところの今回の災害の経緯はこうです。
 ①三里川暗渠は老朽化して土砂が流出しやすくなっていた。
 ②台風21号による大雨で土中の水分量が上がっていた。
 ③胆振東部地震で土砂が液状化して三里川暗渠に流入した。
 ④前掲の標高図の通り、殆ど勾配がないので、排水不良が生じた。
 ⑤液状化と排水不良によって下流に土砂が噴出し、陥没が生じた。

仮に、私の予想通り三里川暗渠が老朽化していた事が今回の液状化災害の原因だったとしても、(今のところ)これが行政の責任であるとは考えません。

今後新たに極端な不手際や瑕疵が判明しない限りは、経緯、リスク、コストの面を総合的に勘案してやむを得なかったと言わざるを得ないのではないでしょうか。

『液状化、里塚』を脱却しよう

今回のタイトルは豊平区(当該地は清田区ですが)のキャッチフレーズである『夢開く、花開く、豊平区』にちなんで、『液状化、里塚』などというフレーズを思いついてしまった自分の底意地の悪さに呆れ果てるばかりです。

今回、敢えてこのような意地の悪いフレーズを使ったのかと言えば、全国ネットの地上波放送で池上彰氏に流布された『清田区』全体への偏見を軽減したい、という想いがあります。

そして、札幌市には里塚の液状化被害の原因究明と改修工事について、しっかりと情報開示をして、里塚についてのイメージも改善して欲しい。

中の島の一件についての記事『何でそんなに中の島の為に頑張ってんの?』というニュアンスのコメントが付いていますが、私は商売で不動産業をやっている人間ですから、不動産の価値が不当に棄損されれば、将来のクライアントの財産価値が下落し、私のインセンティブも減ってしまいますから、ごくごく当然の動きでしょう。
次回は池上彰氏の番組で全国に紹介されたデマについて書いてゆく予定です。

シリーズ『胆振東部地震』
 ◇胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について
 ◇清田区里塚で生じた大きな液状化被害と『防災カルト』の蠱惑
 ◇『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ
 ◇デマで市域の5.3%を貶めた札幌市民の敵、池上彰氏をどうしてくれようか。

清田区里塚で生じた大きな液状化被害と『防災カルト』の蠱惑

平成30年9月6日に発生した胆振東部地震において、清田区里塚には甚大な被害が発生しました。
ニュースでは東日本大震災を彷彿とさせるような傾いた家屋・陥没した道路が多く映され、『北海道はとんでもない事になっている』という印象を与えているようです。

まぁ、当該地以外の札幌市内はそこまで大したことないのですが。
・・・なんて事を言うと『不謹慎厨』と呼ばれるような人々に怒られてしまうかもしれませんが、本当に大変な人々・・・例えば厚真や鵡川の皆さんと、電気が使えず物流が滞った程度の札幌市内を同列にする事は出来ません。
勿論、札幌市内でも家屋が傾いたりと大変な思いをされている方はいるのですが、昨今の大規模災害と比較して総合的・客観的に考えた場合には、やはり『大したことはない』という評価になってしまいます。

ともかく、今回、札幌市内では一部エリアにのみ重大な被害が生じた訳ですが、その中で里塚の液状化現象と、そこに暗躍する『防災カルト』の蠱惑について考えてゆきましょう。

大前提

まず、本題に入る前にこの記事の大前提を明示します。
①私は地質や地盤について専門的教育を受けたプロではありません。単なる不動産屋がハザードマップや古地図を見ていて感じた私見を述べるに過ぎません。
私が現在知りうる情報の範囲では、東区の地下鉄上道路陥没も含め今回の液状化に行政の責任はないと考えています。
 液状化の原因と災害対応がどうだ、という話とは別問題です。
③大規模停電については北海道電力の危機管理体制に大きな問題があったと考えています。

『旧道の日』などと言ってる場合ではなくなってしまった里塚

国道36号線の過去のルート『旧道』をご存知ですか?』で紹介した通り、
札幌市は9月10日を『旧道の日』と定めて祝っていましたが、
9月6日の震災で液状化が発生したのはまさに旧道の部分。


『旧道の日』などと言っている場合ではなくなってしまいました。

『清田は水田地帯だったから液状化する』という暴論

インターネットだけならばまだ良いのですが、テレビや新聞などのマスメディアでも『清田は水田地帯だったから液状化する』という話が聞こえてきます。
結論から言いますと、これはトンデモない暴論です。

元々『水』や『谷』に関係する地名は注意が必要、だとか『龍』『蛇』『梅』もそれに関連する、といった『地名防災論』は防災に関するコンテンツでよく目にするトピックスです。
平成26年に広島県で発生した大規模な土砂災害のエリアは昔『八木蛇落地悪谷』と呼ばれていたものが造成され、地名が変更されて分譲された、というような報道がなされました。

まぁ、その『八木蛇落地悪谷』の経緯も『嘘』『捏造』という指摘があるようで、現在では検索候補に『嘘』という文字が出てきます。
 ◇ 八木蛇落地悪谷 嘘 – Google 検索

まぁ、そういう考え方も必要ではあるのですが、今回の件とはまったく関係がありません。
例えば札幌市内の地名で米里新川中沼というものがあり、これらはいずれも軟弱地盤で震度は大きかったのですが、今回は里塚ほど目立った被害は発生していません。

というか、『清田』という地名を考える場合は『清田区清田』について考えるべきであって、『清田区里塚』とは直線距離で1.5キロ程度離れていますし、地震被害もそう大きくはありませんでした。
そもそも『里塚』という地名は札幌から三里の距離を示す『三里塚』に由来するものですから、こりゃ『地名防災論』とは関係ないぞ、というお話なのです。

東京で例えれば『渋谷は谷地だから危ない』という話もよく聞きますが、じゃー渋谷区内の全域が谷地なのかといえば、そうではないでしょうという話です。(渋谷区には明治神宮だってあります。)

結果論から後追いで物事を考えるのは仕方のないことですが、その理由に妥当性があるのか否か、という点については、きちんと考えるべきでしょう。

・・・よくよく調べてみると、このデマの出処は名物コメンテーター池上彰による地震当日の全国ネットでの番組であるという事が判明しました。

これについては、機会を持ってお話ししたいと考えています。

ハザードマップ信仰・防災信仰の薄気味悪さ

前回、『胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について』でも触れましたが、『ハザードマップ信仰』とも呼べる状況に薄気味悪さを感じています。
主に『今回の液状化はハザードマップで予言されていた』『ハザードマップを見ていれば分かった』というもの。

確かに被害エリアは赤で『液状化発生の可能性が高い』と評価されています。
これを見て『予言されていた』とか言っちゃう大人がいて、
率直に言えば頭オカシイんじゃないの?と思います。

いや、他に幾らでも赤いエリアはあるのに、他では深刻な液状化被害は生じていないじゃないですか・・・
こんな事本気で言っている人はカンタンに詐欺師に騙されますよ。
『誰にでも当てはまる事を言う』バーナム効果と同じような話じゃないですかね。

こんな程度の的中率のモンで『ハザードマップは重要だね』という世論の醸成が、私にはどうも薄気味悪い。
そこまで言うなら全部赤く塗っちゃえばいいんじゃないの?
それなら的中率100%になりますよ?

いや、ハザードマップが無意味と言っている訳ではないんですよ?
『地名防災論』と同じ話で、それが合理的帰結に結びつくのか否か、という話を冷静に捉えて、判断材料の一つでしかない、という事をきちんと理解してツールとして正しく使いましょうよ、という風に考えています。

『里塚』の被害地は谷地だったが、水田地帯だったのか?

今回、里塚の液状化現象については、専門家の先生方は『元々谷地だった場所に火山灰を埋め立てたことが原因』と口を揃えています。

また、それを受けて『分譲業者の手法に問題があったのでは?』とか『宅地造成の許可を出し、その後の維持管理をした札幌市に問題にあるのでは?』などという声がプロのジャーナリストやアマチュアのインターネット利用者など色々な処から上がっています。
その中には、前述の『清田』の話と結びつけて『水田地帯を埋め立てた』というような表現をする人も見られます。

また、ハザードマップと合わせて過去の地形図や航空写真を読み解く事が防災につながる、という話題もあって、それはそれなりに説得力のある論であるように思われます。

戦後、昭和27年内務省地理調査所の地形図を見てみましょうか。

まず、等高線から谷地であることは間違いありませんね、また確かに水田の地図記号は示されているのですが・・・
同時期、昭和20年代の航空写真を見てみましょう。
う~ん・・・これって水田に見えますかね・・・?
その20年後、1970年代・・・昭和40~50年代のカラー写真を見ましょう。

私にはどうしても、このエリアである程度の規模で稲作が行われていたようには見えないんですけどねぇ・・・
後述しますが、川の周辺の湿地で出来る営農として、やむを得ず稲作をしていたという程度なのではないかと考えています。

何故、里塚だけに目立った被害があるのか?

里塚が水田地帯だったのかどうかは兎も角として、谷地である、という事は間違いありませんし、それが液状化の原因になったという事も、そうなのでしょう。

同じような地形という意味では平岸澄川西岡宮の沢のあたりの等高線もエグイ事になっていますし、札幌において火山灰地泥炭地といった軟弱地盤はごくごくありふれたものです。

また、同じ里塚地区でも今回液状化被害が生じた場所より東側のエリアも谷地を火山灰で埋め立てたものの、被害はずっと小さな結果となりました。
上記の地図や航空写真の中央より右側を見てもらえば、よく分かるはずです。

『同じような場所は他に幾らでもあるのに、何故この場所だけに被害が生じたのか』という合理的な分析が出来ずに風説を垂れ流すのであれば多少の差はありこそすれ迷信にも劣る『防災カルト』にしかなりません。

今回のキーポイント『三里川暗渠』

既にこういうネタでは老舗のブログである『札幌時空逍遥』さんとか、清田区の市民団体サイトである『ひろまある清田』で既に指摘されている問題なので、私が今更この場で指摘するのも憚れるのですが、今回の被害には『三里川』の暗渠部分が関わっているのではないかという話があります。

まぁ、軟弱地盤とか液状化といった問題には、大抵水の流れが関わっていますからね。

札幌市内にある河川を網羅した『札幌市河川網図』という地図があり、これも前述の両サイトで紹介されていますが、方位を補正し、綺麗な状態で掲載をしてみましょう。

これを元に札幌市現況図の上に河川を4つの色に分けて示しました。
『三里川』と『三里東排水』の明渠≒地上に表れている川の部分、
赤は『三里川』の暗渠橙は『三里東排水』の暗渠黄は『里塚西排水』の暗渠です。

今回の液状化現象は、明確に三里川の暗渠に沿って発生しています。
不思議なのは、過去に同様の地形であった『三里東排水』は液状化危険度図で『可能性が極めて低い』と評価され、実際にも比較的に大きな被害は発生していない、という点です。
・・・いや、まぁ『ひろまある清田』では、後日、『三里東排水』の上流での液状化被害が報告されているのですが、里塚ほどではない、という意味です。
 ◇ 美しが丘5条9丁目 里塚霊園隣接地 地盤沈下 住宅10軒傾く

つまり、私の個人的な考えでは『三里川』の暗渠に何らかの個別的な問題が生じたのではないか、という事です。

どうにも今回の液状化被害と『防災カルト』のような風説が横行している事、
そして何より生業たる不動産業に与える影響への危惧などから、
地震から一週間後に現地に向かい、三里川の状況も確認してきました。

他人の事を『防災カルト』などと腐しておいてなんですが、次回は現地に行った上で私が感じた事や地質の専門家の立場ではない不動産屋として考えた事をまとめてゆこうかと思います。

『防災カルト』が行き過ぎて、何でも国や自治体の責任だと言うようになると、結局、誰も責任を取ってくれなくなりますよと思うのです。
その結果は『ハザードマップを全部赤くする』事になって、結局誰の利益にもならんのですよ。

シリーズ『胆振東部地震』
 ◇胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について
 ◇清田区里塚で生じた大きな液状化被害と『防災カルト』の蠱惑
 ◇『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ
 ◇デマで市域の5.3%を貶めた札幌市民の敵、池上彰氏をどうしてくれようか。

胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について

今回、被災した札幌の不動産を売りたいという話はぽつぽつ頂いているんですが、
①新築購買層がどのような動き方をするか、未知数である事
②被害の大きいエリアへのニーズが低くなる=価値が下落する事
の2点から、流れが読めない・・・というかある程度は覚悟しておいた方が良い、というアドバイスにならざるを得ません。

では、『今は売り時ではない』と言ってしまっていいのか、というとそうも言えません。

まず、『被害の大きなエリアは需要が落ちる』という事を安易に言ってしまっていいのか、という問題があります。
今回の災害で札幌市内で『広い』被害を生じたのは高層マンションにおける停電による受水槽ポンプとエレベータの停止でした。
『戸建はすぐに水が出た』というのはちょっと物を知っていれば当たり前の話で、直結直圧方式だからなのですが、エレベータについてはどうしようもありませんし、集合住宅では備蓄にも限界があります。

そういった意味で、戸建のニーズが高まる要因もあるとは言えます。

また、②の価値下落が仮に現実化したとしても『だから売らない』と言ってしまっていいのか、というと、これも難しい。
投資の世界で『損切り』という言葉があるように、価値下落が継続する場合には早期に売却をして損失を拡大させない方がよいという考え方があります。
そういう意味で、今回の災害はターニングポイントという事が出来るでしょう。

『売るべきか否か』は一概に断じられず、以下のような事情を分析して個別にアドバイスをさせて頂く事になります。
 ①それぞれのエリアの特性
 ②建物の被害状況
 ③近隣の流通状況
 ④住宅ローンの状況
 ⑤災害による保険金が下りるか否か
 ⑥お客様個々人のライフプラン

以前のブログから災害関係の記事のニーズは高いのですが、安易に『どこそこのエリアが危険/安全』という事に耳目が集まりがちですがそうではないんですよね。

今回、里塚・美しが丘のエリアは液状化により大きな被害を受けました。
これは過去の記事『札幌市と地震 過去と将来の液状化現象』でも紹介した通り、15年前の十勝沖地震でも液状化被害が発生しています。
また、ニュースなどで『液状化危険度図』で危険が高いエリアとなっていることも取り上げられています。

政府が積極的に広報している事もあり、最近、『ハザードマップ信仰』ともいえるようなハザードマップの持ち上げが目立つように思います。
では、同じく液状化エリアとされている震度5強新川・新琴似エリアはどうなのかというと、今のところ液状化被害は耳に入っていません。

また、新しくなった液状化危険度図では危険エリアが広がっているような・・・気のせいでしょうか。

ハザードマップがどうなっていようが台風21号や停電の被害はあった訳で、あまりハザードマップを偏重するのもどうなのかな、という気がしないではありません。

話が逸れてしまいましたがここから年末にかけて、札幌市内で被災した不動産が売りに出てくる可能性は高いと思われます。
これが市場全体の価格の動きにどう跳ね返ってくるのか、非常に興味深い処です。

災害関係の記事については以前まとめていますが、また直近の状況についてまとめようかと考えています。
 ◇札幌の地盤について 地盤沈下と液状化の目安
 ◇札幌市と地震 過去と将来の液状化現象

※ 本稿は札幌市近郊の状況について記したもので道内全体の状況を鑑みたものではありません。
  また、本稿における『被災』の定義は液状化や地震によって建物の構造または土地の地盤に瑕疵が生じた事を指します。
  その為、分譲マンションにおける停電被害は念頭に置いておりません。

シリーズ『胆振東部地震』
 ◇胆振東部地震で被災した札幌市内の不動産の流通について
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 ◇『液状化、里塚』の現実を見よう、夢想は不要だ
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